株式とは、均一的な細分化された割合的単位の形をとった株式会社の社員の地位です。
株式とは、均一的な細分化された割合的単位の形をとった株式会社の社員の地位とするのは、株式を社員の地位との関連で理解する通説(社員権論)の立場に基づくものです。
これに対して、株式会社の株主について、他の社団法人とは異なって、社員権という概念を否定する立場もあります(社員権否認論)。この立場によると、議決権等の共益権は株式に化体された本質的な権利ではなく、株主が機関の資格において有する権限にすぎないとされます。
株主が社員であることを否定する社員権否認論をさらに進め、株式とは株主が会社に対して有する剰余金配当請求権という債権であるとする見解(株式債権説)もあります。典型的な株式会社である上場会社においては、多くの株主にとって配当等の個人的・債権的利益のみが投資の目的であって、企業支配への参加等という意識がないという現状を踏まえ、支配権能までも含めて株式の本質を捉えるべきではないと考えるのです。
さらに、「自益権と共益権」、「単独株主権と少数株主権」及び「固有権と非固有権」が重要となります。このように、株主の権利については様々な見地から分類されていますので、どのような権利がどのように分類されているのか注意しましょう。
株主は、会社に対して種々の権利を有しています。この株主としての地位に基づく権利は1個の株式に包含されているため、個別に処分することはできません。
もっとも、これは株主としての権利であるために譲渡等の処分が禁じられるのであり、すでに具体的に発生している権利(ex. 株主総会決議によって特定した配当金支払請求権等)については、債権者として株式とは別個に処分することができます。
株式の共有
均等な割合的単位としての1個の株式を、さらに細かに分割することは原則としてできません(株式不可分の原則)。これに対し、1個の株式を数人で共有することは認められます。これは、株式自体を分けるのではなく、そのままで数人が共有するにすぎないからです。
株式を数人が共有する場合には、共有者は、権利を行使する者(代表者)1名を定め、会社に通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません。ただし、この権利行使の制限は、会社の事務処理上の便宜のためのものですので、会社がその権利行使することに同意した場合は、権利を行使することができます。
この代表者は必ず共有者の中から選任しなければならず、たとえ当該会社の株主であっても、共有者以外の者を代表者に定めることはできません。代表者と定められた者は単独で議決権を行使することができます。
また、株式を数人が共有する場合には、共有者は、株式会社から株主への通知又は催告を受領する者を1人定め、会社に通知しなければならず、共有者からの通知がないときは、会社の通知又は催告は、会社が任意に選定する共有者の1人に対してすれば足ります。
ただし、これは会社からの通知又は催告に限るのであって、剰余金の配当等については適用がありません。したがって、株式の共有者が、株主の権利を行使するべき者を定めていない場合であっても、会社は任意に選定する共有者の1人に対して、剰余金の配当をすることはできません。
また、株式の共有については、民法の共有についての規定が準用され(民264)、共有株式を譲渡する場合には、共有物の変更行為として、共有者全員の同意が必要となります(民251)。
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
3 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を株主とみなして、前二項の規定を適用する。
4 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。
共有株式の権利行使
旧商法下では、株式が共有されている状態で権利行使者の指定・通知をしていない場合に、会社側が権利行使を認めることができるかについて、明文の規定はありませんでした。この点、判例はかかる場合に「会社の側から議決権の行使を認めることは許されないと解するのが相当である」としていました(最判平11.12.14)。
しかし、旧商法203条2項が権利行使者を指定するように定めた趣旨は、会社の便宜を図る点にあります。とすると、会社側が自らのりスクにおいて共有者の1人に権利行使を認めても、この趣旨には反しません。
そこで、会社法は、権利行使者の通知のないときであっても、会社の側から特定の共有者に権利行使を認めることができるとしたのです(106ただし書)。
通知を欠く場合でも例外的に、当該「株式が会社の発行株式の前部に相当し、共同相続人のうちの1人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されている本件のようなときは、…他の共同相続人は、右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有する」とした。
共有株式の権利行使者は、共有株式が持分の価格に従いその過半数で決める。
自益権と共益権
自益権とは、株主が会社から経済的利益を受けることを目的とする権利であり、共益権とは、株主が会社の管理運営に参加し、経営に参与することを目的とする権利です。
株主は会社の実質的所有者であるところ、その所有者としての権利は、所有物の対象が会社であるために、社員たる地位の形で変容を受けています。そこで、株主の権利は会社から経済的利益を目的とする自益権と、会社経営に参加する共益権とに分けられます。
自益権としては、具体的に以下のものがあります。
① 剰余金配当請求権(105Ⅰ①)
② 残余財産分配請求権(105Ⅰ②)を中心とする他、主な自益権としては、以下のものが挙げられる、
③ 株式買取請求権(116、192、469、785、797)
④ 取得請求権付株式の取得請求権(107Ⅰ②、108Ⅰ⑤)
⑤ 株券交付請求権(215Ⅰ)
⑥ 名義書換請求権(133Ⅰ)
また共益権は、その中心となる株主総会における議決権(1051(3))と、それ以外の監督是正権に分けられます。主な監督是正権としては、以下のものが挙げられます。
① 設立無効訴権(828Ⅰ①、Ⅱ①)
② 募集株式発行無効訴権(828Ⅰ②、Ⅱ②)、自己株式処分無効訴権(828Ⅰ③、Ⅱ③)
③ 総会決議取消訴権(831Ⅰ)
④ 代表訴訟提起権(847Ⅰ)
⑤ 累積投票請求権(342Ⅰ)
⑥ 取締役・清算人の違法行為差止請求権(360Ⅰ、482Ⅳ)
⑦ 取締役会招集請求権(367Ⅰ)
⑧ 議事録・書類閲覧謄写請求権31Ⅱ:定款 125Ⅱ:株主名簿 252Ⅱ:新株予約権原簿684Ⅱ:社債原簿 318Ⅳ:株主総会議事録371Ⅱ:取締役会議事録 442Ⅲ計算書類394Ⅱ:監査役会議事録 413Ⅲ:委員会の議事録378Ⅱ:会計参与が備置きする計算書類491、496Ⅱ:清算株式会社の規定
⑨ 株主提案権(303、304、305、491)
⑩ 株主総会招集権(297、491)
⑪ 取締役・監査役の解任請求権(854Ⅰ)
⑫ 会計帳簿閲覧謄写請求権(433Ⅰ)
⑬ 検査役選任請求権(306Ⅰ、358Ⅰ)
⑭ 解散請求権(833Ⅰ))
31Ⅲ:(定款)、125Ⅳ(株主名簿)、252Ⅳ(新株予約権原簿)、684Ⅳ(社債原簿)、318Ⅴ(株主総会議事録)、371Ⅴ(取締役会議事録)、442Ⅳ(計算書類)、433Ⅲ(会計帳簿)、378Ⅲ(会計参与が備置きする計算書類)は、子会社の業務執行に対する親会社の株主の監督是正権(閲覧謄写請求権)を規定しています。
インカムゲインとは株式の利子・配当による収入のこと。キャピタルゲインとは株式の値上がりによる利益を指す。
単独株主権と少数株主権
単独株主権とは、1株を有する株主でも行使し得る権利のことです。少数株主権とは、総株主の議決権の一定割合以上、又は一定数以上の議決権を有する株主のみが行使できる権利のことです。
一般的に特定企業に対して、より多くの株式を有していればいるほど発言権が強くなります。
旧商法下では、少数株主権の行使要件は、すべて議決権を基準とすることとされていました。
しかし、少数株主権の中には、株主の議決権の有無にかかわらず株主であれば当然認められるべき性質のものもあります。
そこで、会社法は①会計帳簿閲覧・謄写請求権(433)、②業務財産調査のための検査役選任請求権(358)、③解散請求権(833)につき、議決権総数に占める議決権数が一定割合以上の株主のみならず、一定の割合の株式数を有する株主も行使できるものとしました。
そのうえで、④取締役等の解任請求権(854、479)も、それぞれの解任の決議につき行使することがで きる議決権総数に占める議決権数が一定の割合以上の株主又は一定の割合の株式数を有する株主が行使できるものとしたのです。
単独株主権
自益権は、すべて単独株主権です。
また、共益権のうちの議決権、及び監督是正権として上に挙げたもののうちの①~⑧、及び⑨[取締役会設置会社における議題提出権(303Ⅱ)・議案要領通知請求権(305Ⅰただし書)を除く]も、単独株主権です。
⑨の株主による議題提出権・議案要領通知権は、取締役会非設置会社においては単独株主権とされている(303Ⅰ、305Ⅰ本)のに対し、取締役会設置会社においては総議決権の100分の1又は300個以上の議決権を要件とする少数株主権とされています(303Ⅱ、305Ⅰただし書)。
さらに、取締役会設置会社のうち公開会社においては、6か月間、上記一定数の株式を保有し続けなければなりません(303Ⅲ、305Ⅱ参照)。
このような違いが定められているのは、取締役会非設置会社においては、所有と経営が実質的に株主に一体化して帰属しているので、株主の意思決定に制約を加える必要がないのに対し、取締役会設置会社においては「所有と経営の分離」の下、取締役会の迅速な意思決定を一定程度保護すべきだからです。
少数株主権
先に挙げた監督是正権のうち、⑨[取締役会設置会社における議題提出権(303Ⅱ)、議案要領通知請求権(305Ⅰただし書)のみ]、及び⑩~⑭は、少数株主権である。
前述のように、監督是正権は少数株主の保護のために認められた権利ですが、あまり広汎かつ強力に認めると、かえって会社運営の効率性が害されたり、濫用されたりするおそれがあります。そこで、かかる弊害を避けるため、監督是正権のうちの強力なものを少数株主権としたのです。
1 株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
3 公開会社でない取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
4 第二項の一定の事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
1 株主は、取締役に対し、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第二百九十九条第二項又は第三項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。
2 公開会社でない取締役会設置会社における前項ただし書の規定の適用については、同項ただし書中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
3 第一項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項ただし書の総株主の議決権の数に算入しない。
4 前三項の規定は、第一項の議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合には、適用しない。
単独株主権と少数株主権の制度趣旨
法は、多数決による弊害を是正するために少数株主にも種々の株主権を付与しています。ただし、そのような権利を広範かつ強力に認めすぎると、所有と経営の分離を図り経営を合理化した趣旨が没却され、また、会社荒らしに濫用される危険もあります。
そこで、権利の性格や濫用の危険性に対応して、単独株主権、少数株主権を規定し、また少数株主権の行使要件を規定しています。たとえば、株主総会招集請求権(297Ⅰ)は総会屋等の株主権の濫用を避けるため、議決権の3%以上を6か月保有した株主に限って認められています。
また、会計帳簿閲覧権(433Ⅰ)は会社の計算書類という重要書類についての監督是正権なので、議決権の3%以上又は発行済株式総数の3%以上の少数株主権とされています。会計帳簿閲覧・謄写請求権については株主総会における議決権行使が前提とされていないため、発行済株式総数の3%以上を保有していれば足りるとされています。
株式保有期間の制限なしの単独株主権 | 裁判所の許可の要否 |
---|---|
1 定款・計算書類等の閲覧・謄本又は抄本の交付請求権(31Ⅱ、442Ⅲ)*2 | |
2 子会社の定款・計算書類等の閲覧・謄本又は抄本の交付請求権(31Ⅲ、442Ⅳ)*2 | 〇 |
3 株主名簿・新株予約権原簿・株主総会議事録の閲覧・謄写請求権(125Ⅱ、252Ⅱ、318Ⅳ) | |
4 子会社の株主名簿・新株予約権原簿・株主総会議事録の閲覧・謄写請求権(125Ⅳ、252Ⅳ、318Ⅴ) | 〇 |
5 取締役会設置会社の取締役会議事録の閲覧・謄写請求権(371Ⅱ) | *7 |
6 取締役会設置会社である子会社の取締役会議事録の閲覧・謄写請求権(371V) | 〇 |
7 監査役会設置会社の監査役会議事録の閲覧・謄写請求権(394Ⅱ) | 〇 |
8 監査役会設置会社である子会社の監査役会議事録の閲覧・謄写請求権(394Ⅲ) | 〇 |
9 委員会設置会社の委員会議事録の閲覧・謄写請求権(413Ⅲ) | 〇 |
10委員会設置会社である子会社の委員会議事録の閲覧・謄写請求権(413Ⅳ) | 〇 |
11子会社の会計帳簿・資料の閲覧・謄写請求権(433Ⅲ) | 〇 |
12社債原簿の閲覧・謄写請求権(684Ⅱ、施規167) | |
13子会社の社債原簿の閲覧・謄写請求権(684Ⅳ) | 〇 |
14募集株式の発行・自己株式の処分差止請求権(210) | |
15募集新株予約権の発行の差止請求権(247) | |
16株主総会出席権・議決権(308)*3 | |
17累積投票請求権(342Ⅰ) | |
18特別清算開始の申立権(511Ⅰ) | |
19略式組織再編行為の差止請求権(796Ⅱ) | |
20会社の解散命令の申立権(824) | |
21会社の組織に関する行為の無効の訴え提起権(828) | |
22株主総会等の決議取消しの訴え提起権(831) | |
6か月前から引き続き保有してることが要件の単独株主権 | 裁判所の許可の要否 |
1 責任追及等の訴え提起権(847) | |
2 取締役・執行役・清算人の違法行為等の差止請求権(360Ⅰ、422Ⅰ、482Ⅳ) | |
総株主の議決権の1/10以上、又は、発行済株式総数の1/10以上 | 裁判所の許可の要否 |
1 解散の訴え提起権(833) | |
総株主の議決権の3/100以上、又は、発行済株式総数の3/100以上 | 裁判所の許可の要否 |
1 会社の業務及び財産の状況の調査のための検査役選任請求権(358) | |
2 会計帳簿・資料の閲覧・謄写請求権(433Ⅰ) | |
6か月前から引き続き、総株主の議決権の3/100以上 | 裁判所の許可の要否 |
1 株主総会の招集請求権・招集権(297Ⅰ、297Ⅳ) | |
6か月前から引き続き、総株主の議決権の3/100以上、又は、発行済株式総数の3/100以上 | 裁判所の許可の要否 |
1 清算人の解任請求権(479Ⅱ) | |
2 役員(取締役・会計参与・監査役)の解任請求の訴え提起権(854Ⅰ) | |
6か月前から引き続き、総株主の議決権の1/100以上 | 裁判所の許可の要否 |
1 株主総会の招集手続等に関する検査役の選任請求権(306) | |
6か月前から引き続き、総株主の議決権の1/100以上、又は、300個以上の議決権 | 裁判所の許可の要否 |
1 株主総会の議題追加請求権(303) | |
2 議案の要領の通知請求権(305) |
*2 謄本、もしくは抄本、又は定款の内容を記載した書面の交付の請求は、株式会社の定めた費用を支払うことを要する
*3 単元株式数を定款で定めている場合には、1単元の株式につき1個の議決権を有する(308Ⅰただし書)
*4 6か月の期間は、定款の定めにより短縮可能。又、公開会社でない会社の場合は保有期間の要件はない(297Ⅱ、303Ⅲ、305Ⅱ、306Ⅱ、479Ⅱ、Ⅲ、854Ⅰ、Ⅱ、360Ⅱ、422Ⅱ、482Ⅳ、847Ⅱ)
*5 1/10、1/100、3/100の保有割合、300個の保有個数は、定款の定めにより、引下げ可能(833Ⅰ、358Ⅰ、433Ⅰ、297Ⅰ、479Ⅱ、854Ⅰ、306Ⅰ、303Ⅱ、305Ⅰ)
*6 取締役会を置かない会社の?合は、単独株主権(303Ⅰ、305Ⅰ本)
*7 監査役設置会社又は委員会設置会社においては、裁判所の許可が必要(371Ⅲ)
*8 株主総会の招集を請求をした株主自ら株主総会を招集するときは、裁判所の許可が必要(297Ⅳ)
固有権と非固有権
株主に認められている権利には、固有権と非固有権があります。 固有権とは、株主の同意がない限り、株主総会決議をもってしても奪うことができない権利です。一方で非固有権とは、株主総会の決議により奪うことができる権利です。
当該権利が固有権と非固有権のどちらに当たるかは、株式会社に参加する株主にとってその本質的利益に関するものであるか否かによって、個別的に決定するものです。
もっとも、商法の規定が発達している現在においては、ある権利を多数決により奪うことができるかどうかはその権利を定める法律の規定の解釈によれば足り、それが固有権か非固有権かを論じる実益は小さいとされています。
株主の義務
株主は株式の引受価額を限度とする出資義務を負います(104)が、これは厳密には株式引受人の義務であり、株主となった後はなんら義務を負いません。
株式引受人は原則として出資義務のみを負いますが、募集株式発行等時に発行価額が著しく不公正であって、しかも取締役とその引受人との間に通謀があった場合には、その株式引受人は不公正な発行価額と公正価額の差額を支払うべき責任を例外的に負わされます。
募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。
一 取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額
二 第二百九条の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足する場合 当該不足額
権利内容による株式の分類
ここでは、「すべての株式の内容についての特別の定め」により、また「異なる種類の株式」として、特殊な権利内容を有する様々な株式が出てくるので、まず各株式の内容を理解しておきましょう。
異なる種類の相式(108)出資者のニーズの多様化に応じて異なる内容の株式を発行することにより、株式発行による資金調達を容易にすることができます。
会社法は、各株式の権利の内容は同一であることを原則としつつ、その例外として、一定の範囲と条件の下で、①すべての株式の内容として特別な事項を定めることと(107)、②権利の内容の異なる複数の種類の株式を発行すること(種類株式制度、108)を認めていいます。
会社法がこれらの株式の発行を認めたのは、一定の範囲と条件の下で株式の多様化を認めることにより、資金調達の多様化と支配関係の多様化の機会を株式会社に与えるためです。
①の「全部の株式の内容」として、一定の内容を定款で定めた場合、後記二1~3の事項につき、会社が発行する全部の株式の内容となる(107参照)。他方、②の「異なる種類の株式」として、会社が2以上の種類の株式を発行する場合、当該株式の種類によって、後記三1(1)~(9)の事項について、異なる内容を定めることができます。そして、この場合、当該会社は2以上の種類の株式を発行する会社であり、「種類株式発行会社」といいます(2⑬)。その発行される株式は、それぞれ種類株式となるのです(108参照)。
たとえば、会社が「全部の株式の内容」として二1の「譲渡制限の定め」をした場合、その会社の発行する株式はすべて譲渡制限の定めのある株式となる。他方、会社が2以上の種類の株式として、三1(4)の「譲渡制限について異なる定めをした株式」を発行する場合、会社が発行する株式のうち1種類は譲渡制限のある株式、もう1種類は譲渡制限のない株式とすることができる。そして、当該会社の発行する株式については2種類以上の株式が存在することとなる。
なお、1株でも譲渡制限のない株式を発行している会社は公開会社である(2⑤参照)。
すべての株式の内容についての特別の定め
1 譲渡制限株式(107Ⅰ①)
譲渡制限株式とは、譲渡による当該株式の取得について、当該株式会社の承認を要する株式のことをいいます。株主は保有する株式を自由に他人に譲渡できるのが原則です(127)が、会社は発行する株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けることができます。
これは、同族会社のように株主の個性が問題となる会社の需要に応えてのことです。会社の意向とは関係なく、会社の経営への発言権である株主が入れ替わることを毛嫌いする経営者は少なくありません。定款で定めることを条件として、すべての株式について譲渡に会社の承認を必要とするというかたちで、株式の譲渡を制限することを認めたです。
この定めをする場合、①当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨、②一定の場合においては株式会社が承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合を定款で定めなければならりません(107Ⅱ①)。
取得請求権付株式(107Ⅰ②)
取得請求権付株式とは、株主が会社に対して当該株式の取得を請求することができる株式です。この定めをする場合、①株主が会社に対して当該株式の取得を請求することができる旨、②当該株式の取得を請求することができる期間、③取得の対価の内容(①の請求において、会社が株式を取得するのと引換えに株主に交付する、当該会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債やその他の財産の内容・数・算定方法等)を定款で定めなければなりません(107Ⅱ②)。
取得条項付株式(107Ⅰ③)
取得条項付株式とは、会社が、一定の事由が生じたことを条件として当該株式を取得することができる株式です。会社法制定前の「転換」の概念は消滅し、会社法の下では、ある株式を会社が自己株式として取得し(155Ⅳ)、他の株式を交付するものと解釈されることになります。
この定めをする場合、①一定の事由が生じた日に会社が当該株式を取得する旨及びその事由、②会社が別に定める日が到来することを①の事由とするときは、その旨、③①の事由が生じた日に一部の株式を取得することとするときはその旨及び取得する一部の株式の決定方法、④取得の対価の内容(①の事由が生じた際に、会社が株式を取得するのと引換えに株主に交付する、当該会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債やその他の財産の内容・数・算定方法等)を定款で定めなければなりません(107Ⅱ③)。
会社が、定款を変更して発行する全部の株式の内容として取得条項付株式の定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(廃止するものを除く)をしようとする場合(種類株式発行会社の場合を除く)には、株主全員の同意を得なければなりません(110)。
株主の意思によらずに、会社が一定の事由の発生を条件に強制的に株式を取得するものだからです。
1 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。
一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
二 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
三 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
2 株式会社は、全部の株式の内容として次の各号に掲げる事項を定めるときは、当該各号に定める事項を定款で定めなければならない。
一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 次に掲げる事項
イ 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
ロ 一定の場合においては株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合
二 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
イ 株主が当該株式会社に対して当該株主の有する株式を取得することを請求することができる旨
ロ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類(第六百八十一条第一号に規定する種類をいう。以下この編において同じ。)及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう。以下同じ。)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
ヘ 株主が当該株式会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間
三 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨及びその事由
ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨
ハ イの事由が生じた日にイの株式の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する株式の一部の決定の方法
ニ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ホ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ヘ イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのニに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのホに規定する事項
ト イの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
異なる種類の株式
種類株式を発行するためには、原則として、その種類の内容及び発行可能種類株式総数(会社が発行する種類株式の数)を定款に定め、登記をしなければなりません。
またこの際の定款変更の決議は、原則として、株主総会の特別決議により行います(466・309Ⅱ⑪)。ただし、ある種類の株主がこの定款変更により、損害を被るおそれがあるときは、当該種類株主総会の特別決議を得なければ、有効に定款を変更をすることができません(322Ⅰ①)。
なお、この種類株主総会の決議は定款でもって排除することはできません(322Ⅲただし書)。
以上が原則であるが、種類株式の事項によって例外もあります。
旧商法下では、ある事項について株式の内容が異なる場合に、当該事項が異なることを①株式の種類とする場合と②そうでないとする場合の両方がありました。たとえば、剰余金配当について異なる事項を定める場合は、そのような内容の種類の株式を発行することとしている(旧222Ⅰ①)のに対し、転換予約権付株式が転換すること自体については株式の種類とは取り扱わないようにしていました(旧222ノ2)。
しかし、①②に分けて整理することは実務的にはあまり意味がないと考えられます。そこで、会社法は、108条1項各号に掲げている事項について異なる内容を設けた場合には、それ自体を株式の種類と取り扱うこととしました。この中には、転換予約権付株式に相当するものも含まれています。
2 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
一 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
二 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
三 株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。 七 発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)
剰余金の配当に関する種類株式(108Ⅰ①)
剰余金の配当について、他の種類の株式よりも優先的な地位が与えられているものを優先株式、劣後的な地位が与えられている株式を劣後株式といいます。業績の不振な会社は優先株式を発行することで資金調達が容易となり、利益の多い会社は劣後株式を発行することによって資金調達を行うことができるのです。
残余財産の分配に関する種類株式(108Ⅰ②)
剰余金の配当と同じく、残余財産の分配について、他の種類の株式よりも優先的な優先株式、劣後的な劣後株式があります。剰余金の配当と残余財産の分配の双方について優先する優先株式、双方について劣後する劣後株式や、剰余金の配当については優先するが残余財産の分配については劣後するというような混合株式等、法定 の手続きを経れば会社のニーズにあわせて発行することができます。
累積的優先株式:ある事業年度に定款所定の優先配当金全額の支払いが行われなかった場合に、不足分につき翌期以降の分配可能額か補てん支払がなされる優先株。
非累積的優先株式:ある事業年度に定款所定の優先配当金全額の支払いが行われなかった場合に、未払優先配当金は切り捨てられる優先株。
株主総会において議決権を行使することができる事項に関する種類株式(議決権制限種類株式)(108Ⅰ③)
会社法は、総会のすべての事項について議決権を行使することができない株式(全部議決権制限株式)のみならず、一定の決議事項についてのみ議決権を有する株式(一部議決権制限株式)を種類株式として認めています(108)。これは旧商法と同様ですが、以下の3点は旧商法とは異なっています。
①議決権制限株式の数
旧商法下では、議決権制限株式は、発行済株式総数の2分の1を超えて発行することはできないとされていました。 会社法においても、公開会社では、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至った場合は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の2分の1以下にするための必要な措置を採らなければならないと定められています。 しかし、公開会社でない会社については、このような制限はありません。
②議決権の行使条件
旧商法下では、議決権を行使できる事項についての制限のみが認められていました。 会社法では、議決権の行使の条件を定款で定めることができます。たとえば、1,000株以上を6か月間以上保有しないと議決権行使を認めない旨の定めを置くことも、株主平等原則との関係で問題となり得るとしても、理論的には十分可能です。
③議決権制限株式の株主が議決権を行使できる場合
旧商法では、いくつかの決議事項について、議決権制限株式の株主の議決権行使を認める明文規定がありました。 会社法においては、公開会社でない株式会社において、剰余金の配当を受ける権利や議決権について株主ごとに異なる取扱いを新設又は変更する旨の定款変更をする場合に限り、議決権制限株式の株主であっても議決権行使が認められます(309Ⅳ参照)。これ以外の事項の決議については、決議要件が「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上…であって、当該株主の議決権の3分の2…以上にあたる多数をもって」といった定めになっているので、議決権制限株式の株主の議決権行使は認められません。
種類株式発行会社が公開会社である場合において、株主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の株式(以下この条において「議決権制限株式」という。)の数が発行済株式の総数の二分の一を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするための必要な措置をとらなければならない。
譲渡制限種類株式(108Ⅰ④)
会社が発行する株式の一部についてのみ譲渡制限を課するものです。取得請求権種類株式(108Ⅰ⑤)
取得請求権付種類株式を発行する場合に当該株式の内容として定めるべき事項は、上記で述べた事項と基本的に同じです。ただし、会社の他の株式を取得の対価とする旨の定めを定款に定めることができる点で異なります(108Ⅱ⑤ロ)。取得条項付種類株式(108Ⅰ⑥)
取得条項付種類株式を発行する場合に定めるべき事項は、上記で述べた事項と同じです。異なる点は、会社の他の株式を取得の対価とする旨の定めを定款に定めることができる点です(108Ⅱ⑥ロ)。なお、種類株式発行会社が、ある種類の株式の発行後に定款を変更して、当該種類の株式の内容としてこの取得条項付種類株式についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(定めを廃止するものを除く)をしようとするときは、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければなりません(111Ⅰ)。
全部取得条項付種類株式(108Ⅰ⑦)
全部取得条項付種類株式とは、2以上の種類の株式を発行する株式会社において、そのうち1つの種類の株式の全部を株式総会の特別決議によって取得することができる旨の定款の定めがある種類株式です。全部取得条項付種類株式を発行する場合、会社は①取得対価の価額の決定方法、②その株主総会の決議をすることができるかどうかについての条件を定めるときはその条件を定めなければなりません(108Ⅱ⑦)。
全部取得条項付種類株式の定款の定めを設ける際の定款変更は、株主総会の特別決議(309Ⅱ⑪)の他、全部取得条項を付される種類株式、全部取得条項を付される種類株式を取得対価とする定めのある取得請求権付種類株式及び取得条項付種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要となります(111Ⅱ)。
またこの場合、反対株主は株式の買取りを請求することができるのです(116Ⅰ②)。その他、全部取得条項を付される種類株式を目的とする新株予約権の新株予約権者は、その新株予約権について定款に別段の定めのない限り、自己の有する新株予約権の買取りを請求することができます(118Ⅰ②)。
拒否権付種類株式(108Ⅰ⑧)
拒否権付種類株式とは、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議の他、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする株式です。拒否権付種類株式を発行するには、定款に①当該拒否権付種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする事項、②当該種類株式総会の決議を必要とする条件を定めるときはその条件を定めなければなりません(108Ⅱ⑧)。
このような定めが定款にある場合、種類株主総会を必要とする事項の決定は、株主総会等の決議の他、その種類株式の種類株主総会の決議がなければ効力を生じません(323本)。ただし、その種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存在しない場合は、種類株主総会の決議は要しません(323ただし書)。
種類株主総会において取締役又は監査役を選任する種類株式(108Ⅰ⑨)
委員会設置会社と公開会社以外の株式会社は、種類株主総会における取締役又は監査役の選任につき内容の異なる株式を発行することができます。この種類株式が発行された場合には、取締役等の選任は、原則として株主総会ではなく当該類株主総会によって行うこととなります。これは、合弁会社を設立する場合や、ベンチャー企業がベンチャーキャピタル(ベンチャー企業に出資する投資家)から出資を受けようという場合には、創業者や一部の株主が、自らの利益を守るため取締役の一部を指名する権利を要求したり、合弁企業において、各出資企業が出資割合に応じて取締役を選任したいというようなニーズに答えるものです。たとえば、ベンチャーキャピタルが出資する会社について、取締役5人のうち3人を選任できるA種類株式を従前の経営者側に、2人を選任できるB種類株式をベンチャーキャピタルに割り当てるということができます。
委員会設置会社と公開会社以外の株式会社(全株式譲渡制限会社)は、種類株主総会における取締役又は監査役の選任につき内容の異なる株式を発行することができます。
委員会設置会社は、指名委員会が取締役選任議案の内容を決定するとされており(404Ⅰ)、種類株主総会単位の選任制度とは相容れないから、この制度は採用できません。
種類株主総会単位の取締役・監査役選任は、公開会社にそれを認めると経営者支配の強化のため濫用されるおそれがあるから、全株式譲渡制限会社でしか行えないのです。
定款上必要とされる種類株主総会の決議に基づかずに代表取締役が行った業務執行行為の無効は、善意の第三者に対しては対抗できません(349V)。
会計参与・会計監査人の選任については、種類株主総会単位の選任の制渡は存在しません。
1 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、委員会設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
一 剰余金の配当
二 残余財産の分配
三 株主総会において議決権を行使することができる事項
四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。
八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第六項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること。
株主ごとの異なる取扱いの定め
公開会社ではない会社(発行する株式の全部が譲渡制限株式である株式会社)においては、①剰余金の配当を受ける権利(105Ⅰ①)、②残余財産の分配を受ける権利(105Ⅰ②)、③株主総会における議決権(105Ⅰ③)について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます。
これは、公開会社でない株式会社は、株主の異動が少なく株主相互間が密接な関係であることが多いため、定款自治を広く認めようとする趣旨です。
この定款の定めをする場合の株主総会の決議は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)であって、かつ、総株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成によります(309Ⅳ)。
この定めは、株式ではなく株主の個性に注目したもので、株主の人的属性によって権利内容を設ける点で種類株式の制度とは異なります。しかし、このような定めはその定めごとに種類株式とみなされ、種類株主総会の制度等が適用されるのです。
1 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3 前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。
種類株式による買収防衛策
以上のような種類株式により、敵対的な企業買収に対する防衛策を講じることが可能になります。
たとえば、拒否権付株式です。これにより種類株主総会を必要とする事項の決定は、株主総会等の決議の他、その種類株式の種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこととされるので、いわゆる「黄金株」と呼ばれます。
組織再編や役員の選解任等、重要な事項について拒否権を有する種類株式を、友好的第三者に発行しておくことで、敵対的買収に備えることができます。
また複数議決権株式も有効です。たとえば、友好的な第三者に対してのみ1株で1単元の種類株式を発行し、その他の株主には100株で1単元の種類株式を割り当てるということで、敵対的な第三者による経営の支配を防ぐことができるのです。
種類株式の内容の委任
種類株式の中で剰余金の配当に関する種類株式のみ例外的に、当該株式の株主が配当を受けることができる額、その他法務揖令(規20Ⅰ①)に定める事項について、定款において、種類株式の内容の要綱だけを定め、具体的な詳細については当該種類株式を発行する時までに株主総公(取締役会設置会社の場合は株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができます(108Ⅲ)。
これは、定款で種類株式の内容を定めた時点から実際に発行する時点までの市場の変化等に迅速に対応できるという利点があります。
トラッキング・ストック(tracking stock:特定事業連動株式)
剰余金の配当・残余財産の分配が当該会社の特定の事業部門又は子会社の業績に連動する株式をトラッキング・ストック(tracking stock:特定事業連動株式)といいます。特定事業部門型のトラッキング・ストックは、分社化することなく、実際の価値に応じた資金調達を可能にするのです。
子会社型のトラッキング・ストックは、完全親子会社関係を維持しながら、親会社の募集株式を通じて子会社のための事業資金調達を可能にします。デメリットとしては、子会社型において、会社の分配可能額がプラスにならない限り配当ができないので、会社自体の業績低迷と子会社等の業績低迷という二重のリスクを株主は負うことになるという点です。
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