会社員として必ず知るべき「賃金支払いの5原則」!給料支払における重要な決まり

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労働の対価として支払われる給料の支払いには、労働法によって厳格な要件が定められています。

会社側の都合で適切な給料の支払いがなされなかったり、不当に少ない賃金が支払われることがないように厳しい規定がされているのです。

一般的に会社が労働の対価として給料を支払う場合は以下の5原則が課されます。

最低賃金の原則使用者がその最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度
通貨払の原則通貨による賃金支払を義務付け、実物給付を禁止
直接払の原則労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止
全額払の原則賃金の一部を支払留保することを禁止
毎月払い、一定期日払いの原則毎月1回以上の周期での給料の支払いを義務付ける


最低賃金制度(給料は最低賃金以上に支払わなきゃダメ)


最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。

仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。

使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。また、このような使用者には罰則が適用されます。

最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定最低賃金」の2種類があります。

派遣労働者には、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されますので、派遣元の使用者とその労働者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。

最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金です。最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外したものが対象となります。
【最低賃金の対象とならない賃金】
①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
④所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当


地域別最低賃金


「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。都道府県ごとに最低賃金が定められています。

地域別最低賃金は、常時、臨時、パート、アルバイト、嘱託などの雇用形態や呼称にかかわらず、各都道府県で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。


特定最低賃金


「特定最低賃金」とは、特定の産業について設定されている最低賃金です。

関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されているのです。

地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が同時に適用される労働者には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。

特定最低賃金は、特定地域内の特定産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用されます。

18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。



通貨払の原則(給料は通貨以外で支払っちゃダメ)


賃金は、原則として強制通用力のある貨幣で支払わねばなりません。

株式・債権などの有価証券や商品券などで給料を支払う現物給付は認められておりません。

現物給付は労働者に、価額の不明瞭、換価の不便、賃金の実質的引下げなどの不利益を及ぼすからです。

ただし、労働協約等によって別段の定めがあれば現物支給が認められる場合もあります。

つまり法令上は、給料は現金で労働者に渡すことが大原則とされており、キャッシュレス化が進んだ現代では、時代錯誤な法律であると言わざるを得ません。

賃金の銀行口座への振込み


施行規則7の2①では、「使用者は、労働者の同意を得た場合には賃金の支払について当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みによることができる」とされています。

賃金を口座振り込みにより支払う方法は、次の要件を満たさなければなりません。
①労働者の同意があること
②労働者が指定する本人名義の預金又は貯金の口座に振り込まれること
③振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に引き出し得ること

また平成10年の施行規則改正により設けられた施行規則第7条の2第2項では、証券会社の一定の要件を満たす預り金である証券総合口座への払込みによる賃金の支払も認められることとなりました。

労働者の同意については、労働者の意思に基づくものである限りその形式は問わないものです。

指定とは、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するとの意味とされます。

この指定が行われれば労働者の同意が特段の事情のない限り得られているものと解されます。

なお振込みとは、振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出し得るように行われることを要するものです(昭63.1.1基発第1号)。




キャッシュレス化が進んだ現代社会でも、電子マネーによる給料支払は認められていないのですね。


労働基準法9条

1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。



直接払の原則(給料は直接支払わなきゃダメ)


賃金は労働者に直接支払わなければなりません。

本人以外の賃金受領者が、労働者に賃金の全部または一部を渡さないという事態が起こらない異様にするための規制です。

具体的には、本人からの委任や法律に基づき、独自の権限で、本人のために法律行為を行う代理人は、もちろん本人に代わって給料(賃金)を受け取ることはできません。

一方で、本人の意思表示を伝達する役割に過ぎない使者は、本人に代わって給料(賃金)を受け取ることができます。

独自の判断や決定権に基づいて、本人のために法律行為を行う「代理人」とは違って、本人の意向や決定を機械的に伝達するに過ぎない「使者」は、本人に代わって給料の受領が認められているのですね。


税金や借金を滞納している場合、一定の限度で、給料が差し押さえられてしまうことがあります。

国税徴収法に基づく滞納処分により賃金債権が差し押さえられた場合に、使用者が差し押さえられた賃金を行政官庁に納付すること認められています。

また、民事執行法に基づき賃金債権が差し押さえられた場合に、使用者が差し押さえられた賃金を差押債権者に支払うことは禁止されません。

ただし、いずれの場合も、賃金、賞与、退職金それぞれの差押限度額が定められており、それを超える額の支払いは違法となります。

国税徴収法76条

1 給料、賃金、俸給、歳費、退職年金及びこれらの性質を有する給与に係る債権(以下「給料等」という。)については、次に掲げる金額の合計額に達するまでの部分の金額は、差し押えることができない。この場合において、滞納者が同一の期間につき二以上の給料等の支払を受けるときは、その合計額につき、第四号又は第五号に掲げる金額に係る限度を計算するものとする。
 一 所得税法第百八十三条(給与所得に係る源泉徴収義務)、第百九十条(年末調整)、第百九十二条(年末調整に係る不足額の徴収)又は第二百十二条(非居住者等の所得に係る源泉徴収義務)の規定によりその給料等につき徴収される所得税に相当する金額
 二 地方税法第三百二十一条の三(個人の市町村民税の特別徴収)その他の規定によりその給料等につき特別徴収の方法によつて徴収される道府県民税及び市町村民税に相当する金額
 三 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第百六十七条第一項(報酬からの保険料の控除)その他の法令の規定によりその給料等から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)に相当する金額
 四 滞納者(その者と生計を一にする親族を含む。)に対し、これらの者が所得を有しないものとして、生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第十二条(生活扶助)に規定する生活扶助の給付を行うこととした場合におけるその扶助の基準となる金額で給料等の支給の基礎となつた期間に応ずるものを勘案して政令で定める金額
 五 その給料等の金額から前各号に掲げる金額の合計額を控除した金額の百分の二十に相当する金額(その金額が前号に掲げる金額の二倍に相当する金額をこえるときは、当該金額)
2 給料等に基き支払を受けた金銭は、前項第四号及び第五号に掲げる金額の合計額に、その給料等の支給の基礎となつた期間の日数のうちに差押の日から次の支払日までの日数の占める割合を乗じて計算した金額を限度として、差し押えることができない。
3 賞与及びその性質を有する給与に係る債権については、その支払を受けるべき時における給料等とみなして、第一項の規定を適用する。この場合において、同項第四号又は第五号に掲げる金額に係る限度の計算については、その支給の基礎となつた期間が一月であるものとみなす。
4 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権(以下「退職手当等」という。)については、次に掲げる金額の合計額に達するまでの部分の金額は、差し押えることができない。
 一 所得税法第百九十九条(退職所得に係る源泉徴収義務)又は第二百十二条の規定によりその退職手当等につき徴収される所得税に相当する金額
 二 第一項第二号及び第三号中「給料等」とあるのを「退職手当等」として、これらの規定を適用して算定した金額
 三 第一項第四号に掲げる金額で同号に規定する期間を一月として算定したものの三倍に相当する金額
 四 退職手当等の支給の基礎となつた期間が五年をこえる場合には、そのこえる年数一年につき前号に掲げる金額の百分の二十に相当する金額
5 第一項、第二項及び前項の規定は、滞納者の承諾があるときは適用しない。



民事執行法152条

1 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
 一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
 二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。


労働者が派遣元企業と契約を交わし、派遣先企業の指揮命令下に入る派遣労働に関して、賃金の支払い義務は基本的に派遣元企業にあります。

派遣労働者が実際に働くこととなる派遣先の企業と派遣労働者は、雇用契約関係にはないのです・

そのため、労働基準法上の賃金規定は派遣元事業主のみに適用されます。

したがって、賃金は、原則として、派遣元事業主から直接派遣労働者に支払われなければなりません。

ただし、派遣先事業主が中間搾取を行うなど、直接払原則の趣旨を失わせることのない限りにおいては、事務処理上の便宜から、派遣先が賃金を派遣中の労働者本人に手渡すことも認められると解されています。

労働者派遣法44条1項

労働基準法第九条に規定する事業(以下この節において単に「事業」という。)の事業主(以下この条において単に「事業主」という。)に雇用され、他の事業主の事業における派遣就業のために当該事業に派遣されている同条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業に使用される者及び家事使用人を除く。)であつて、当該他の事業主(以下この条において「派遣先の事業主」という。)に雇用されていないもの(以下この節において「派遣中の労働者」という。)の派遣就業に関しては、当該派遣中の労働者が派遣されている事業(以下この節において「派遣先の事業」という。)もまた、派遣中の労働者を使用する事業とみなして、同法第三条、第五条及び第六十九条の規定(これらの規定に係る罰則の規定を含む。)を適用する。




全額払の原則(給料は全額支払いしなきゃダメ)


賃金(給料)は、全額まとめて支払わなければならないのが原則ですが、使用者(雇い主)が労働者に対して有する債権との相殺ができるかが問題となります。

使用者が労働者に対して、何らかの債権を有する場合に、労働者が使用者に対してもつ債権と打消し合うことを相殺と言います。

この使用者と労働者が相互にもつ債権を打ち消し合う相殺は、給料の全額払の原則から認められないのが基本です。


給料の同意相殺はできる?(日新製鋼事件)


賃金(給料)の相殺は原則として認められませんが、その相殺が労働者の同意に基づき行われた場合は、認めれることがあります。

給料の相殺にあたり、労働者の自由な意思に基づいて同意がなされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合には、全額払の原則に反しません(日新製鋼事件:最判平2.11.26)。


給料の調整的相殺(福島県教組事件)


過去に生じた賃金の過払分を次の賃金支払分から控除することを調整的相殺といいます。

労働者の賃金債権を使用者の労働者に対する債権をもって相殺することは原則許されません。

しかし、賃金の減額事由が賃金計算期間満了前の支払日の直前に生じたために賃金を減額できなかったり、計算違いが生じたことによって賃金に過払いを生ずる事態もあり得ます。

このような賃金過払時の調整のために、該当金額を後に支払われる賃金から控除することは支払事務上合理的であり、労働者にとっても実質的には本来支払われるべき賃金が全額支払われた結果となります。

また、労働基準法24条1項の法意を合わせ考えれば、調整的相殺は、その行使の時期・方法・金額などから見て労働者の経済生活の安定を害さない限り、同条項の禁止するところではないとしています。

なお、同判決は、具体的に調整的相殺が許されるためには、以下の要件が満たされる必要があるとしています。

  • 過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期になされること
  • あらかじめ労働者にそのことが予告されていること
  • その額が多額にわたらないことなど、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのない場合であること



その他の賃金(給料)全額払の例外


  • 放棄:労働者の自由意思による退職金債権の放棄は全額払の原則に反しない(シンガー・ソーイング・メシーン事件:最判昭48.1.19)
  • 法令:源泉徴収や社会保険料控除、労働基準法91条の限度内での懲戒減給などは、法令により正当に認められた賃金控除事由
  • 労使協定:賃金控除の対象となる具体的な項目および各項目別に定める控除を行う賃金支払日を、労使協定で定めることとされている (行政解釈)。


労働基準法91条

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。




毎月一回以上・定期払の原則


賃金は毎月1回以上、一定の日に支払わなければなりません。

賃金支払日の間隔が長すぎたり、支払日が一定しないことによって生じる労働者の生活上の不安定を防止するための原則です。

給料日は、通常「毎月の25日」などと決められていることが多いと思われますが、「2カ月に1回」の給料日とすることや、「毎月第4金曜日」を給料日とすることなども認められません。

また臨時で支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので命令で定めるものは、この原則の例外とされています。



毎月一回以上・定期払の原則の例外


毎月一回以上・定期払の原則の例外とされる「臨時に支払われる賃金」とは、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」をいうとされています(昭22・9・13発基第17号)。

就業規則の定めによって支給される私傷病手当(昭26・12・27基収第3857号)、病気欠勤又は病気休職中の月給者に支給される加療見舞金(昭27・5・10基収第6054号)、退職金等が臨時に支払われる賃金です。

同様に毎月一回以上・定期払の原則の例外とされる「賞与」とは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」をいい、「定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず」賞与とはみなされません(昭22・9・13 発基第17号)。

臨時に支払われる賃金及び賞与以外で毎月1回以上一定の期日を定めて支払うことを要しない賃金として、施行規則第8条は、次の3種の賃金を定めています。
①1カ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
②1カ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
③1カ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当

①~③の各賃金は、賞与に準ずる性格を有し、1カ月以内の期間では支給額の決定基礎となるべき労働者の勤務成績等を判定するのに短期にすぎる事情もあり得ると認められます。

毎月払及び一定期日払の原則の適用を除外しているのであるから、これらの事情がなく、単に毎月払を回避する目的で「精勤手当」と名づけているもの等はこれに該当しないことはもちろんです。

しかし③の賃金については、生産量の測定は月々可能ですが、例えば天候又は動力等の関係で月々の生産量に変動があり、その変動を比較的少なくするため1月以上の期間を計算期間とする奨励加給のようなものは含まれないと解されます。



年俸制は労働基準法違反?


年俸制は、賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度です。

外資系企業や成果主義の要素が強い職種で積極的に採用されること傾向があるのが年俸制の実情です。

年俸制の下においても、それが通常の賃金として労働者の生活を支える手段である以上、労働者の経済生活の安定を害することは許されません。

したがって、年俸は、賃金毎月1回以上・定期払原則に即し、 たとえば総額を12等分して毎月支払われるべきとされています(通説)

給料を年単位で決定する年俸制でも、支払自体は毎月一回以上する必要があります。




労使協定


労使協定とは、過半数労働組合または過半数労働者代表との書面による協定で、事業者の全労働者に効果を及ぼします。

  • 労働契約:使用者と個々の労働者が個別に締結する契約。
  • 労働協約:使用者と労働組合が締結する。
  • 労使協定:使用者と労働者代表が締結する。


労働契約は、使用者と個別労働者の契約なので、契約の効力は個別の労働者にしか及びません。

また労働協約は、使用者と労働組合が締結する協約なので、その効力は労働組合の組合員すべてに及びます。

個々の労働者では、使用者に対する立場は弱いですが、労働組合となると使用者に対してより強い立場で交渉することができます。

一方の労使協定ですが、使用者と労働者代表が協定を結ぶことで、事業場の全労働者が協定に拘束されることになります。

そのため労使協定では、協定に反対する労働者も協定に従わざるを得なくなるのです。

労使協定が認められている事項として以下のものがあります。

  • 貯蓄金管理(18条2項)
  • 賃金一部控除(24条1項但書、24協定)
  • 1カ月単位変形労働時間制(32条の2第1項)
  • フレックスタイム制(32条の3)
  • 1年単位変形労働時間制(32条の4第1項・第2項)
  • 1週間単位変形労働時間制(32条の5)
  • 一斉休憩原則の適用除外(34条2項但書)
  • 時間外・休日労働 (36条1項、三六協定)
  • 代替休暇(37条3項)
  • 事業場外労働のみなし労働時間(38条の2第2項)
  • 専門職裁量労働(38条の3第1項)
  • 時間単位年休(39条4項)
  • 計画年休(39条6項)
  • 標準報酬日額による年休賃金支払(39条7項)




労使協定の要件


労使協定を締結するには、以下の要件を備える必要があります。

  • 労働基準法所定事項についてのみ締結が許される。
  • 当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、そのような労働組合のない場合には、労働者の過半数を代表する者との間で締結すること
  • 書面により締結すること
  • 行政官庁へ届け出ること(不要なものもある)



労使協定の恐るべき効果


労働条件は、労働基準法に定められたものを最低基準としてすることとされています。

しかし、労使間の合意による労働協定が締結されると、使用者は、労働条件を労働基準法基準ではなく労使協定基準で設定しても、労働基準法違反で処罰されることはないという免罰的効果があります。

また、使用者が労使協定基準に従って締結した労働契約が無効とならないという効果もあります。

ただし、労使協定が締結されても、使用者は労働者に協定内容に服するよう強制できるわけではありません。

使用者が労働者に労使協定に服するよう求めるためには、協定基準によることにつき、労働協約、就業規則、労働契約いずれかの形での根拠が必要となります。



チェックオフ


チェック・オフとは、労働組合の組合費を給料から天引きする労使間の合意のことです。

このチャック・オフは、使用者と労働組合の間で、使用者が労働者に賃金を支払う前にあらかじめその組合員労働者の組合費を控除し、組合費を一括して労働組合に支払うことを約定することになります。

このチェック・オフ協定は、労働基準法24条1項但書によって、労使協定として締結する必要があります(エッソ石油事件:最判平5.3.25)。

さらに、労使間でチェック・オフ協定を締結するのと同時に「労働者個々の同意」が必要とされるかが問題となります。

確かに、以下の通り、労働協約のチェック・オフ条項を、協約の規範的部分であると考えれば、労働者個々の同意は不要だと考えられます。

  • 労働協約形式で締結されている場合、労使協定と同様に考える必要はない。
  • チェック・オフは、賃金支払いに関する労働契約内容の基準という性格を有しているため、労働協約でこれを定めた場合、同協定は規範的効力を有する。


しかし、以下の通り、労働協約で締結されているチェック・オフ条項を、協約の規範的部分でないと考えれば、労働者個々の同意は必要と考えられます。

  • チェック・オフ協定が、労働協約で締結されている場合も、労使協定の場合と同様に考えるべき。
  • チェック・オフは、個々の組合員の賃金請求権の問題であって、労働者の待遇に関する基準の問題ではないから、協約上のチェック・オフ協定は、労働協約の規範的効力を有しない。


チェック・オフ協定の締結には、個々の労働者の同意が必要であるとの立場が判例・通説ですね。


労働基準法24条

1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。



労働組合法16条

労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。





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