知っているようで知らない公的医療保険制度(健康保険)と、それを支える医療従事者の概要

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日本国民であれば誰もが持っている健康保険証は、皆が公的な医療保険に加入して、公平な医療を一定割合の負担で受けられる国民皆保険の象徴だ。

病院等での保険診療ならば、1割から3割負担で享受できる健康保険制度について、若くて健康な人ほど無頓着であろう。

多くの医療従事者によって日本の医療は支えられている。

さらに介護などの現場で活躍する福祉職も、医療従事者と手を携え現場で活躍している。

日本の公的医療制度と医療や福祉の現場で活躍する専門職を見ていこう。

国が運営する公的医療保険


国民に医療サービスを保障するには、施設や人員の整備が必要とされるため、冶療のための費用を保障するだけでは不十分です。

わが国では、古くから業務外の傷病を給付対象とした公的医療保険制度が発達し、今日で病院で受信する治療費の大半が保険診療として供給されています。

社会保険としての公的医療保険(健康保険等)は、もともと労働者の業務外の傷病という保険事故に対し、必要なニーズを充足させるものです。

そのため、傷病からの復帰を目的とした医療サービスのほかに、傷病を理由とする休業補償をもその給付内容としていました。

また、医療サービスに関しては、現物給付方式のほかに、医療サービスに要した費用を金銭給付する方式(費用償還方式)があります。

現物給付方式とは、病院の窓口で保険書を提示することで医療費そのものの負担割合が軽減される方法です。医療そのものを現物で給付しようとの理念です。我が国の医療はこの方式です。

費用償還方式とは、病院の窓口で医療費のすべてをいったん支払い、のちに保険で賄われる割合の償還を受ける方式です。フランスの医療保険が該当します。

しかし、医療サービスは、病院などの物的施設や医師・看護師などの人的な資源を必要とするため、費用の保障のみでは必ずしも医療サービスを実効的に保障したことにはなりません。

そのため、これらの医療施設整備と医療費の確保システムを総合的に保障する体系として医療保障という考え方が1970年代から打ち出されるようになりました。

国民の医療を保障するために、金銭的な保障だけじゃダメってこと?
病院で働く医者や看護師の確保、検査や治療で必要な医療機器を確保することも大切だね


わが国の公的医療保険制度は、患者の窓口負担を軽減する医療サービスの現物給付を保険者に義務づけています。

しかし、日本の医療サービス供給の大半を民間の医療機関に委ねてきたため、いわゆる医療過疎の地域では費用は確保現物の医療か供給されえないという事態が発生しました。

公的医療保障の考え方は、費用保障だけを行う医療保険のみでは十分に医療サービスを保障できないとの反省の上に立つものであり、所得保障に傾きがちなわか国の社会保障政策に大きな影響を与えてきました。

また、公的医療保険は、傷病の治療に重点をおきすぎていたため、医療を疾病予防やリハビリテーションを含めて総合的に把握することが軽視されていました。

そのため、効率的な医療体制という観点からは、予防と治療と予後を一連のものとして体系的に構築する必要が医療サイドから指摘されてきました。

このほか、憲法25条を根拠に「健康権」か提唱され、国民の健康を維持・増進する施策のなかに医療保険を位置づけようとする学説も登場しています。



医療従事者の資格は多彩


医療サービスの供給に従事する者の資格については、以下の法律が個別に規定しています。
  • 医師法
  • 歯科医師法
  • 薬剤師法
  • 保健師助産師看護師法(保助看法)
  • 臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律
  • 診療放射線技師法
  • 理学療法士及び作業療法士法
  • 臨床工学技士法
  • 歯科衛生士法
  • 歯科技工士法
  • 視能訓練士法
  • 義肢装具士法
  • あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律
  • 柔道整復師法
  • 救急救命士法

これらは、主に資格の得喪に関する要件や手続について規定している。

これらの資格には、特定の業務に従事することを許可する業務独占のほか、特定の名称を用いることを許可する名称独占があります。

つまり、ある資格を持っている者だけが、特定の業務を行うことができる制度が、業務独占です。一方で、資格を持っている人だけが、特定の肩書を公に名乗ることができるのが、名称独占です。

医者の資格を持ってない人が医療行為を行うことは医療法で禁止されてるよ。
なるほど、医療行為は医者だけができるんだから『業務独占』だね
医者の資格を持ってない人は、自分が『医者』だと名乗ることも禁止されているよ。
なるほど、医者じゃないのに医者って公に名乗ってはダメなのが『名称独占』か


上記のうち、業務独占と名称独占を備えるのが医師、歯科医師、薬剤師、診療放射線技師、歯科衛生士です。

また、助産師・看護師・准看護師や柔道整復師などが業務独占のみであり,保健師や救急救命士などは名称独占にとどまります。



看護師と介護士の仕事ってどう違うの?


医療従事者のうち、医師と歯科医師のみが包括的に医業(医療行為の実施)を独占しています。

そのため、医師はすべての医療行為が可能です。

また、医師以外の医療従事者の医療行為については、原則として医師の関与か必要とされます。医療行為によって、医師の指示や指導のほか、立会い・同意・処方せん・指示書などか求められています。

同様に、看護師には「療養上の世話又は診療の補助」の業務独占が認められております(保助看5条・31条)。 しかし、臨床検査技師や理学療法士に対しては看護師の業務独占が部分的に解除されています。つまり、臨床検査技師や理学療法士の業務範囲に関しては、看護費の業務独占は認められていません。

「療養上の世話又は診療の補助」のうち、患者の血液や尿、便、脳波などを検査する業務を担うのが『臨床検査技師』
「療養上の世話又は診療の補助」のうち、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るためリハビリを担うのが『理学療法士』


業務独占は、特定の業務に無資格者が就業することを禁止するため、職業活動の自由を保障する憲法22条1項との関係が問題となります。

有資格者に業務独占を認めることは、資格を持ってない人にその業務を行う機会を奪うことにもなります。

裁判例は「医療行為が一般公衆衛生上重大な影響があるので、診療過誤等具体的事故発生の場合において責任を問うだけでは足りない」ことを理由に、医師の業務独占を合憲としています(大阪高判昭27・2・16)。

憲法で職業選択の自由は保障されていても、特定の有資格者に業務独占を認めることは、医療や福祉の安心のためには必要なことですね。

なお、資格保有者が業務独占によて特定の職業活動を独占していたとしても、それは、公共目的を達成するための規制によて反射的に発生した利益に過ぎないため、第三者の資格取得ついて争うことは許されません。

他人の資格取得について、直接利害関係のない他の資格保有者が、口を出す権利はないのです。

保健師助産師看護師法5条

この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。



保健師助産師看護師法31条

1 看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。 2 保健師及び助産師は、前項の規定にかかわらず、第五条に規定する業を行うことができる。



憲法22条1項

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。





福祉の専門職は高齢化社会の担い手


医療の隣接領域である福祉についても、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士という資格があります。

社会福祉士は、日常生活に支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言・指導その他の援助を行うこと(相談援助)を業とします。

また、介護福祉士は日常生活に支障がある者に対して入浴、排泄、食事などの介護を行うことを業とします(社福士2条)。

精神保健福祉士は、精神病院その他の医療施設において精神障害の医療を受けている者等の社会復帰に関する相談援助を業とします(精福士2条)。

社会福祉士と精神保健福祉士は、相談援助を業とする点で社会福祉学にいうソーシャルワークを共通の基盤としています。

ただし、その対象者が社会福祉士では福祉施設の利用者、精神保健福祉士では精神科系の医療施設の利用者という違いがあります。

これは、社会福祉士の業務対象から医療施設の利用者が除外されたという事情によるものであり、一般の医療施設における患者の相談援助業務についても独自の資格制度(医療ソーシャルワーカー)を求める声があります。

これらの資格は、いずれも業務独占ではなく、名称独占です(社福士48条,精福士42条)。

これは、日常生活の援助を対象とする福祉職の専門性が医療職よりもやや緩やかであること、福祉職の担い手を広く求めるためには業務独占が障害となることなどがその理由として挙げられています。

なお、高齢者ケアを中心に、介護職と看護職の業務を明確に区分することが困難になってきているため、保助看法の業務独占についてはその見直しを求める声が少なくないのが現状です。

看護師は医療職で、介護士は福祉職だね
医療補助行為を行えるのは看護師だけだけど、食事や入浴のお世話みたいな仕事になると、看護師と介護士のどっちがやるのか曖昧そう
そうだね、看護師の仕事と介護士の仕事は重なり合う部分も多いのが実情だね。


精神保健福祉士法2条

この法律において「精神保健福祉士」とは、第二十八条の登録を受け、精神保健福祉士の名称を用いて、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第五条第十八項に規定する地域相談支援をいう。第四十一条第一項において同じ。)の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うこと(以下「相談援助」という。)を業とする者をいう



社会福祉法2条

1 この法律において「社会福祉事業」とは、第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいう。
2 次に掲げる事業を第一種社会福祉事業とする。
一 生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)に規定する救護施設、更生施設その他生計困難者を無料又は低額な料金で入所させて生活の扶助を行うことを目的とする施設を経営する事業及び生計困難者に対して助葬を行う事業
二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設又は児童自立支援施設を経営する事業
三 老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホーム又は軽費老人ホームを経営する事業
四 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)に規定する障害者支援施設を経営する事業
五 削除
六 売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)に規定する婦人保護施設を経営する事業
七 授産施設を経営する事業及び生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業
3 次に掲げる事業を第二種社会福祉事業とする。



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