今回は、そのうち会社法に規定される各種の会社に共通する点を学んでいきます。
会社の経済的機能
ここでは、「個人的立場からみた経済的機能」が重要となります。これから学習を進めていく会社法がいかなる需要に応えるために規定されているのかという観点から理解しておきましょう。
個人的立場からみた経済的機能(会社のもつ長所)
ます会社のもつ長所として、(1)資本の集中と労力の結合と(2)企業危険の軽減が挙げられます。
(1)資本の集中と労力の結合
企業者は利益の獲得を目的として資本と労力とを投じます。そしてより大きな利益を得るには、多数の者の資本・労力を結合して共同企業を形成し、企業規模を拡大することが必要です。 会社はこのような資本・労力の結合を実現するのに適している社会集団です。(2)企業危険の軽減
企業者は、万一損失を被る場合にもその負担ができるだけ小さいことを望みます。損失が生じても、企業の規模が大きければ多数の者が損失を分担することになるので、一人当たりの被害が小さくて済むのです。このように、企業規模の大きい会社は企業危険を軽減するのに適しているといえます。
さらに企業者は企業に投下した資本の額を超えては危険を負担しないという制度(有限責任制度)を設ければ、この危険軽減の作用は極めて大きくなるのです。
個人的立場からみた経済的機能(会社のもつ短所)
企業者は利益の獲得を目的とするあまり、自己の利益のみを追求し、他人の利益を犧牲にしがちです。このことは、共同企業、特にその典型である会社において顕著となります。
社会的立場からみた経済的機能
今日、規模の大きい企業のほとんどは会社形態で営まれています。現代社会の経済活動は会社形態で営まれており、国内社会・国際社会の繁栄は会社のあり方に大きく依存しているのです
会社内部での関係としては、多数の労働者にとって労働の場となります。また外部に対する関係としては、商品やサービスを提供します。
さらに国に対する関係として、法人税・住民税その他の租税を納め、国家経済の根幹を支えています。
このように会社は、企業者の意図・目的を離れ、その目的を超えた社会的機能・使命、さらに公共的性格を有しているのです。
会社の法的規整
ここでは、「会社法の法源」が重要となります。会社法の法源として、会社法以外にいかなるものが存在するのかについてしっかりとおさえましょう。
法的規整の必要性
会社は共同企業経営のための組織であるから、営利追求という目的を有しており、組織もその種類に応じて様々です。
そのため会社組織に関する法制度は、団体に関する一般法の規定では十分ではありません。
会社の種類に応じて、成立から消滅に至る全過程(設立→存続中→解散・清算)について、団体及び構成員の内外の法律関係を規律する特別法が必要となります。
そのような法的規整の必要性に応えるのが会社法です。
法源としては、会社法が主なものですが、その他に特別法、商慣習、個々の会社の定款等が挙げられます。
各法源の適用関係
(1) 会社に関する法律関係には、まず、その効力が認められる限りにおいて、各会社の定款規定が適用されます。 (2) 次に、会社法の規定が適用されるが、それについての一般的な特別法(ex.社債、株式等の振替に関する法律等)があればそれが優先的に適用されます。 特定の営業を行う会社について特別法がある場合には、それがさらに優先して適用されるのです(ex.銀行法等)。 (3)以上に適用されるべき規定がなければ、商慣習法が適用され、商慣習法がないときには民法が適用されます。
1 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。 2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。
会社法の性質
会社法は会社の法的規整の必要性に応えるためのものであり、会社に関する個々の経済主体問の利益調整や、権利義務関係の調整を目的とします。
その意味で私法的法規が会社法の大部分を占めますが、この目的実現に必要なものである限り、会社に関する訴訟及び非訟事件についての規定や、罰則の規定といった公法的法規も会社法に属します。
会社法の理念
会社法が目指すところ(理念)は、「企業の健全な秩序ある発展」です。これは、「企業維持の理念」と「企業活動円滑の理念」の2つに分けて考えられます。
企業維持の理念
企業はいったん成立すると、債権者や従業員など、様々な利害関係者に大きな影響を与えます。もし企業が簡単につぶれてしまうことがあれば、多くの人々が損害を被ることになります。そこで会社法は、企業がいったん成立した以上、できる限り維持存続させるべきであるという考えに立って、各種の規定を設けているのです。
企業活動円滑の理念
企業は、単につぶれなければよいものではありません。企業の取引活動が円滑に行われることが大切です。そのために、会社法は様々な配慮をしているのです。
会社法の条文が複雑な理由
会社法の条文の特徴として、「ルールを書き切ろうとしている」ということが挙げられます。具体的には、何が原則で何が例外かを明らかにし、条文の中だけで完結するような、できるだけ「閉じた世界」を作ろうとしているということです。このこと自体は、企業にとっての予見可能性を高め、不確実性を減らすものですから、望ましいものといえるでしょう。しかし、ルールを書き切ろうとした結果、条文を記号化し論理的に整理する必要がありました。このように、条文が記号化しているがゆえに、非常に読みにくくなってしまいましたが、これは日本語という言語自体の限界ともいわれています。会社の意義
会社とは、会社法の規定に基づいて設立された法人であり、株式会社、合名会社、合資会社及び合同会社の形態が規定されています。(2①)。
会社は、「①営利性、②社団性、③法人性」の特性を有しています。
旧商法下では、「会社」とは営利・社団・法人であるとされていました。(旧52、54、旧有1)。しかし、会社法の下では「会社は法人とする」というのみであり、営利・社団性についての規定はありません。
この点、営利性の規定がなくなったことを重視すれば、会社が営利目的のみならず慈善的な目的を掲げる余地があることになります。
他方で社団性についても、会社が社団であることに変わりはないとされています。この点、一人会社でも、株式や持分の譲渡等によって社員を複数にすることができることから、潜在的に社団性があるといえます。
会社は、法人とする。
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 会社 株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう。
営利性
会社法上の「会社」が有する「営利性」について理解するためには、「会社概念における営利性」が重要となります。「会社概念における営利性」を理解するためには、「商人概念における営利性(収支適合)」・「個人企業における営利性」との違いを意識することが大切です。
商人概念における営利性(収支適合)
商人性が認められるためには、商行為をすることを業とすること、すなわち利益を得る目的(営利目的)をもって商行為を反復・継続して行うことが必要です。
ここにいう「営利」目的の意味はどのような意味かでしょうか。
商人概念規定において問題となる営利目的は、商法規定の適用範囲を確定するためのものです。
よって企業採算的見地にたって企業経営がなされれば、「商人概念における営利性」が認められます。
すなわち収支相償うことを意図して独立採算性の下に経営されれば、「商人概念における営利性」が認められるとも言えるでしょう。
1 この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。
会社概念にいう営利性
営利性とはいかなる意味でしょうか。
会社の構成員は、会社が利益をあげることを手段として、自己が利益にあずかることを目的として会社に参加しています。
よって会社概念における営利性は、団体が対外的な営利活動により利益を得、その得た利益を構成員に分配することを意味するのです。
利益の分配が社員になされれば、その分配の方法は利益剰余金分配の方法でも残余財産分配の方法でも「会社概念にいう営利性」を有すると言えます。
国家・市町村等の公法人や公益法人の営利性
国家・市町村等の公法人や公益法人も、事業(営業)をすることができ、その範囲で商人資格を取得することができます。
公法人や公益社団法人は、営利行為を本来の目的としていないため、付随的事業により利益を得た場合でも構成員に対して利益を分配するものではなく、会社概念における営利性をもたないといえます。
また、協同組合のように、対外的活動ではなく、団体の内部的活動を通じて構成員に経済的利益を与えるものも、この意味での営利性をもたないといえるでしょう。
会社(外国会社を含む。次条第1項、第8条及び第9条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。
個人企業における営利性
株会社と異なり、個人企業の場合には自らが利益を得ることを目的としています。
よって個人企業における営利性は、対外的な営利活動により利益を得ることを意味し、構成員への利益分配は不要となるのです。
営利性の行く末
会社法においては、営利性が会社の特性であるとする見解が一般的です。この点、旧商法において会社は「商行為ヲ為スヲ業トスル目的ラ以テ設立シタル社団」と定められていた(旧商法52Ⅰ)ため、営利性が会社の特性であることは当然でした。しかし、会社法においては、3条で「会社は、法人とする」と定め、5条で「会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする」と定めているのみであるため、営利性を会社の特性とする必要はないとする考え方もあります。すなわち、5条は、会社の行う行為には営利性があるといっているにすぎず、営利性は会社の概念を定める要素ではないと考えるのです。この点、株式会社においては105条1項1号2号で、株主の権利として①剰余金の配当を受ける権利及び②残余財産の分配を受ける権利が定められ、同2項で、株主に対し①②をいずれも与えない旨の定款は無効であると定められているので、営利性が会社の特性ともいえそうです。
しかし会社法109条2項は、公開会社でない株式会社について、①②の権利について株主の個性に着目した別異の取扱いを認めています。また、持分会社に至っては、社員に対して利益配当・出資払戻し・残余財産分配の権利を与えない旨の定款を無効とする規定は存在しません(621Ⅰ、624Ⅰ、666参照)。
このように、営利性は会社の特性ではなく、「社員の結集の動機にすぎない」との考え方もあり得ることに注意が必要です。このような考え方からは、団体の内部活動によって、経済的利益を直接的に構成員にもたらすことを目的とする相互保険会社、協同組合、金庫なども、剰余金の分配又は残余財産の分配を受ける権利を株主に認めている限り、株式会社として認められることになります。
社団性
社団とは、組合に対する概念であり、法的形式として、構成員が団体との間の社員関係により団体を通じて間接に結合する団体を指します。
会社法には、株式会社を「社団」とする明文規定がありません。これは、元来「社団」には複数人が結合する団体という意味があるのに対し、株式会社には一人会社が多いこと、及び、会社法は持分会社にも一人会社を許容したことに基づくものです(江頭・23頁)。
会社の「社団性」を知るためには、「株主間接有限責任の原則」の意味合いと、その趣旨とともにしっかりとおさえましょう。
ここでは、会社の社団性と関連で問題となる「一人会社」・「一人会社における具体的問題点」が重要となります。一人会社の意義についてしっかりおさえたうえで、具体的にいかなる点が問題となるかについて理解しておきましょう。
社団と組合との違い
社団と組合を形式的性質による区別すると、組合が「構成員が相互の契約関係により直接結合する団体」であるのに対して、「社団」は「構成員が団体との間の社員関係により団体を通じて間接的に結合する団体」と定義できます。
この区別によると、合名会社も社団であることになります。
次に組合と社団の実質的性質による区別を考えてみましょう。
実質的な区別での「組合」は、「少数の構成員からなり、構成員の個性が濃厚であって、重要事項を決定するのに構成員全員の一致が必要であるような団体」です。
一方で実質的な区別での「社団」は、「多数の構成員からなり、構成員の個性が希薄であって、重要事項でも構成員の多数決で決定し得るような団体」です。
この区別によると、株式会社は社団であるが、持分会社は組合であることになります。
会社の社団性の意義
社団の定義をめぐっては学問上様々な見解が唱えられてきました。しかし、社団に関する様々な法律関係は法律上明定されているため、社団性を論じる実益はなく、会社法は、会社が社団であるという旧商法の明文の規定を削除したのです。
なお、従来の社団の定義に関しては、(1)社団と組合とは対立するものであるとの前提をとりつつ、両者を形式的性質により区別することによりすべての会社が社団であることを説明する立場と、(2)すべての会社が社団であるというときの「社団」とは、団体、すなわち共同の目的を有する複数人の結合体(組合を含む広義の社団)のことであり、組合と対立するものではないとする立場(通説)が存在しました。
一人会社
社員が1人である会社を一人会社(いちにんがいしゃ)といいます。
一人会社の設立と存立
社員が1人である一人会社を設立し、又は社員が1人となっても会社を存続させることが認められるか。一人会社の設立・存立を認めることは社団性に反しないかが問題となります。
合資会社においては無限責任社員と有限責任社員がそれぞれ1人以上存在しなければならないので(576Ⅲ参照)、一人会社は認められません。
株式会社・合名会社・合同会社については、①社員の加入や持分の一部の譲渡により、いつでも社員が複数となり得ること、②これを一人社員の意思で行い得ること、によって潜在的に社団性が認められるといえます。
よって株式会社・合名会社・合同会社については、一人会社も認められます。
合資会社の場合は、無限責任社員と有限責任社員がそれぞれ1人以上存在しなければならないので、一人会社は認められない。もっとも、社員が1人となったことは会社の解散原因とされておらず、合名会社や合同会社に転換されます。
設立しようとする持分会社が合資会社である場合には、第一項第五号に掲げる事項として、その社員の一部を無限責任社員とし、その他の社員を有限責任社員とする旨を記載し、又は記録しなければならない。
持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
一 定款で定めた存続期間の満了
二 定款で定めた解散の事由の発生
三 総社員の同意
四 社員が欠けたこと。
五 合併(合併により当該持分会社が消滅する場合に限る。)
六 破産手続開始の決定
七 第八百二十四条第一項又は第八百三十三条第二項の規定による解散を命ずる裁判
1 合資会社の有限責任社員が退社したことにより当該合資会社の社員が無限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社は、合名会社となる定款の変更をしたものとみなす。
2 合資会社の無限責任社員が退社したことにより当該合資会社の社員が有限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社は、合同会社となる定款の変更をしたものとみなす。
・株式・持分の譲渡によって株主・社員が複数となる可能性があり、潜在的社団性が認められるといえる。
・社員が1人となることが解散原因とされていない。
・平成2年改正以前の旧商法は、会社の成立時には7人以上の発起人が必要であるとしていたが、会社法では株式会社の設立に必要な発起人の数の制限が撤廃されている。
株式会社は、株主の間接有限責任制度(104)により、一定の財産を他の財産から分離して管理するための技術としての側面を有します。 一人会社は、株式会社をこの側面において利用しようとするものであり、個人企業が法人成りしようとする場合や、会社が100%子会社を設立しようとする場合等に問題となります。
一人会社における株主総会招集手続の要否
株主総会の招集は、取締役会設置会社では取締役会(取締役会非設置会社では取締役の過半数の同意)による総会の日時・場所等の決定(298Ⅰ、Ⅳ、348Ⅱ)、原則として2週間前の株主への通知(299Ⅰ)等の手続きを経ることが必要です。
判例(最判昭46.6.24)は「いわゆる一人会社の場合には、その一人の株主が出席すればそれで株主総会は成立し、招集の手続を要しない」としました。
社員が一人である「一人会社」においても、招集手続がなくても一人株主が出席すれば足りるのかが問題です。
会社法においては、株主の全員の同意があるときは、原則として招集手続を省略できるとしています(300)。よって、このような問題は生じないとも思われますが、一人会社や全員出席が可能な小規模会社では手続きの簡単な全員出席総会が利用されると考えられることから問題となり得ます。
会社法300条の「同意」は事前の同意が必要と解されており、同意書面が必要となることから全員出席総会の方が手続きが簡単といえるからです。
前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。
だとすれば株主全員が総会の開催に応じることによって、その利益を放棄していることが明らかであれば、総会の成立を認め、その決議を維持することは差し支えないはずです。
よって一人会社の場合には、その一人株主が総会開催を認めれば、招集手続は不要と解されます。
株主全員が集まり、総会を開催することに同意した、いわゆる全員出席総会の場合には、招集手続がなくても株主総会は有効に成立します。よって、一人会社の場合には、一人株主が総会の成立を認めれば招集手続は不要です。
株主全員が総会開催に同意し、法定手続履践による利益を放棄していると認められる場合には、総会の成立を認めても不都合はないからです。
もっとも、取締役・監査役を排除した全員出席総会の決議には、取り消し得ベき瑕疵があると解すべきであるとする見解もあります。
取締役が会社との間で利益相反行為を行うには株主総会の承認
取締役が会社との間で利益相反行為を行うには株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の承認が必要です(356Ⅰ②、③、365Ⅰ)。
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。 一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。 二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。 三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
1 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
結論として、取引きをする取締役が一人株主であるときは、取締役会の承認を要しません。
356条1項、365条の趣旨は、取締役が自己又は第三者の利益を図ることにより、会社ひいては株主に損害を与えることを防止するためであるから、取締役会設置会社において取締役が一人株主である場合には承認を要しないとしても356条1項・365条の趣旨に反しないからです。
会社法においては、取締役会が必須の機関ではなく、取締役会非設置会社においては利益相反取引の承認は株主総会が行うものと定められています(356Ⅰ②、(3))。そして株主総会決議については、株主全員が書面又は電磁的記録(インターネット)により同意の意思表示をすることによって、総会の開催自体を省略して決議があったとみなすことができる(319)ため、実務上ナンセンスな議論ではあります。
会社法356条1項が原則として株主総会の承認を要求し、取締役会設置会社においては365条1項が取締役会の承認を要求したのは、取締役がその地位を利用して会社と取引することで自己又は第三者の利益を図り、会社ひいては株主に損害を与えることを防止するためです。
だとすれば取締役会設置会社において取締役が一人株主である場合には、会社と取締役との間に実質的な利益相反関係がないから、取締役会の承認を要しないとしても会社法の趣旨に反しません。
よってこの場合には取締役会の承認がなくても取引は有効であると解されます。
なおこのように考えると会社債権者を害するとの批判もあるが、会社債権者保護は別途取締役の責任(429)を追及することにより図り得るから問題はないでしょう。
X会社の取締役であり、かつ一人株主であるYが、自己所有の土地をX会社に売却した事案において、「X会社の利害得失は実質的にはYの利害得失となるものであり、その間に利害相反する関係はない。 したがって、Yがその所有の本件土地をX会社に売り渡すことについて、両者の間に実質的に利害相反の関係を生じるものではないというべきである。 ところで、商法265条(会社法356条)が、会社と取締役との間の同条所定の取引について取締役会の承認を要するものとしている趣旨は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が行なわれることを防止するにあるのであるから、会社と取締役間に商法265条(会社法356条)所定の取引がなされた場合でも、前段説示のように、実質的に会社と当該取締役との間に利害相反する関係がないときには、同条所定の取締役会の承認は必要ないものと解するのが相当である」
一人会社における定款による株式譲渡制限
会社法107条1項1号は、株式譲渡自由の原則の例外として、会社が発行する全部の株式について、譲渡につき当該会社の承認を要する旨の定款規定を設けることによって、譲渡の自由を制約することができる旨を規定しています。
1 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。 一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
判例は、会社の一人株主である取締役が、会社に自己所有の土地を売却した場合、両者の間に実質的な利害相反関係はないので、取締役会の承認は必要ないとしています。
株式の譲渡制限制度(107Ⅰ①)の趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護することにあります。
そして一人株主がその保有する株式を他に譲渡した場合、譲渡人以外の株主の利益保護が問題となる余地はなく、107条1項1号の趣旨が妥当しません
そうだとすれば定款所定の当該会社の承認がなくとも、その譲渡は会社に対する関係においても有効と解されます。
株式譲渡制限の制度は、譲渡株主以外の株主の利益を保護するために設けられた制度であるが、一人株主がその保有する株式を他に譲渡する場合、他の既存の株主の利益保護が問題となる余地はありません。
定款に株式の譲渡制限の定めのある会社において、全株保有の一人株主がその持株の全部を取締
役会の承認を得ずに譲渡し、讓受人から名義書換の請求があった場合、会社はこれを拒むことができるか。
判例は「定款に株式讓渡制限の定めがある会社において、一人株主が株式を讓渡した場合は、取締役会の承認がなくてもその讓渡は有効である」として、不要説を採用した。
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