株式会社は何者か?株式会社の本質と株式の基本的な考え方を総ざらい

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手広く会社経営をするには株式会社を作るのがよい。大規模経営をするためには当然のことながら多額のお金が必要だ。会社を作るのに一億円のお金が必要な場合、1人の人に出してもらうのは難しい。大規模経営を可能にするため、多額の資金を結集できるシステムが必要になるだろう。それよりも10万円くらいずつ1000人の人に出してもらった方が実際的だ。市場に散在している少額の資金をかき集めて多額の資金を結集するのが株式会社である。

出資の単位が細かく分割されているのが株式だ。構成メンパーの責任は前回のゼミでも話し合った通り間接有限責任となっている。株式会社の間接有限責任は多数の人に出資してもらえるというメリットがある。

無限責任を負うとすると、会社が10億円の負債を抱えて倒産した場合に限る。これでは恐ろしくて誰も出資しなくなってしまう。会社にお金を貸した債権者は会社が倒産した場合に泣き寝入りする。怖くて誰も会社にお金を貨してくれず、運営上資金を必要とする場合にも借り入れできない。

資本金一億円の会社は、他から借りたお金とは別に一億円に見合うだけの財産を確保している。債権者はそのことを念頭に置いて会社にお金を貸すことができるのだ。



株式会社の特質


社会に散在する多数の資本を集中して大規模な企業を営むための、共同企業形態の典型であるから、多数の者が容易に会社に参加し、社員となり得るものであることを要する。

そのため会社法は、社員の地位を、①一方において、均一的な細分化された割合的単位(株式)とし、②他方において、社員は会社に対して有限の出資義務を負うだけで、会社債権者に対しなんら責任を負わない(間接有限責任)ものとした(104)。これは、株式会社の最も根本的な2特質である

さらに株式会社においては、社員は間接有限責任を負うにとどまるから、会社債権者が頼りにできるのは、会社財産だけであり、それを確保するために厳格な規制が必要となる

そこで会社法は、会社財産確保のために、資本金という制度を設けている(株式会社の二次的特質)

株式会社の2大特質である「株式」及び「社員の間接有限責任」と、有限責任制度を採用した結果要請される「資本金制度」について検討しよう。



株式の意義


株式会社を理解するために「株式の意義」が重要となります。まず、その意義についてしっかりとおさえたうえで、なぜ「均一的な細分化された割合的単位」の形をとっているのかについて理解しておきましよう。

株式とは、均一的な細分化された割合的単位の形をとった株式会社の社員の地位をいう。株式は、株式会社における社員の地位であり、他の会社における社員の地位と基本的には異ならないが、株式は細分化された均等な割合的単位の形をとっているところにその特色がある。これは、社員の地位から個性を喪失させ、多数の者が容易に会社に参加し得るようにするためである。

株主は、実質的にみれば会社企業の共同所有者である。株主は会社事業につき一定の持分ないし分け前を有するはずだ。しかし会社は社団法人であり、会社事業そのものは会社自体に属する。

そこで株主の実質的な企業所有権は、会社に対する法律上の地位として現れる。

株主はこの地位に基づいて会社に対して多種の権利を有する。このような会社に対する法律上の地位が、株式の実体をなすのだ。



均一的な細分化された割合的単位

株式会社は大規模経営を予定しており、多数の者が容易に会社に参加し得ることが必要である。

仮に各社員ごとに社員たる地位の内容を個別的に定めるとすると、多数の社員が参加する団体では内部関係が処理しきれなくなるし、社員たる地位の譲渡も円滑になし得なくなる。

そこで社員の地位を細かく単位化して株式としたうえで、社員は希望に応じて複数の株式を取得し得ることとしたのである。

また株式は、均一的な割合的単位となっている。1人で数株を保有する者は、その株式数だけ株主の地位を有することになる。



3 持分単一主義・持分複数主義と持分均一主義・持分不均一主義

株式会社においては、株主の地位は均一的な割合的単位の形をとり(持分均一主義)、株主は希望により複数の株主たる地位を保有できる(持分複数主義)。

これに対して、合名会社、合資会社では、各社員の有する社員の地位は常に一個であり(持分単一主義)、その大きさが各社員の出資の価額に応じて異なる(持分不均一主義)。

例えばA、B、C、Dの4人が、それぞれ100万円、200万円、300万円、400万円を出資して会社を設立した場合、各人の持分の大きさ、持分の数は以下のようになる

会社の持分の考え方

持分会社においては、各社員はそれぞれ1個の持分を有し(585ⅠⅡ参照・持分単一主義)、その持分の量が、出資の価格(576Ⅰ⑥)及び損益分配の結果(622Ⅰ)を反映してそれぞれ異なることになる(持分不均一主義)(江頭・116頁)。



4 株式の経済的価値

株式は会社企業の実質的所有権が、均一的な割合的単位に細分化されたものと考えることができる。 よって、株式の経済的価値と会社の純資産との問に、次のような関係が成り立つ。 株式の経済的価値





株主間接有限責任の原則

ここでは「株主間接有限責任の原則」の意味合いと、その趣旨とともにしっかりとおさえましょう。
会社法第104条(株主の責任)

株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。

株主は、会社債権者に対しては責任を負担せず、会社に対して出資義務を負うにとどまる(間接責任)。

しかもその責任は、各株主の有する株式の引受価額を限度とする(株主有限責任:104条)。

株主間接有限責任の原則の趣旨は、株主の責任を有限とすることにより会社への参加を容易にし、多数の資本を結合することによって大規模経営を可能にする。

株主の義務は会社への有限の出資義務であるが、会社法上は全額払込制が採用されており、設立時に発行する株式については会社成立前に、設立後の株式発行の場合は株式発行の効力発生前に、出資義務を履行しなければならない(34Ⅰ、63Ⅰ、208Ⅰ)。

よって、株主の出資義務は形式的には株式引受人の出資義務であり、株主になった後は、原則としてなんら責任を負っていない。



資本に関する原則と最低資本金制度


ここでは、資本金の意義・趣旨及び「資本に関する原則」が重要となります。特に、「資本に関する原 則」はその趣旨との関連で具体的な制度について解説しましょう。
会社法第445条(資本金の額及び準備金の額)

1項 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2項 前項の払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

会社法第911条(株式会社の設立の登記)

3項 第1項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。 ⑤ 資本金の額

会社法第37条(発行可能株式総数の定め等)

1 発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。
3 設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。

会社法第113条(発行可能株式総数)

3 定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合には、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。

株主は間接有限責任を負うのみだから、会社債権者は会社財産を担保とせざるを得ず、一定の財産を確保する必要がある。
会社法第34条(出資の履行)

1 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、…

会社法第36条(設立時発行株式の株主となる権利の喪失)

1 発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない。
2 前項の規定による通知は、同項に規定する期日の2週間前までにしなければならない。
3 第1項の規定による通知を受けた発起人は、同項に規定する期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う。

会社法第63条(設立時募集株式の払込金額の払込み)

1 設立時募集株式の引受人は、第58条第1項第3号の期日又は同号の期間内に、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの設立時募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければならない。
3 設立時募集株式の引受人は、第1項の規定による払込みをしないときは、当該払込みをすることにより設立時募集株式の株主となる権利を失う。

会社法第208条(出資の履行)

1 募集株式の引受人(現物出資財産を給付する者を除く。)は、第199条第1項第4号の期日又は同号の期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければならない。
2 募集株式の引受人(現物出資財産を給付する者に限る。)は、第199条第1項第4号の期日又は同号の期間内に、それぞれの募集株式の払込金額の全額に相当する現物出資財産を給付しなければならない。
5 募集株式の引受人は、出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより募集株式の株主となる権利を失う。

会社法第52条(出資された財産等の価額が不足する場合の責任)

1項 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。

資本金とは、会社債権者を保護するために、会社財産を確保するための基準となる計算上の一定の数額をいう。

株式会社においては株主は間接有限責任を負うにすぎないため、会社財産のみが会社の財産的基礎となり、会社債権者の担保となる。

そのため会社財産を確保することが、会社債権者のみならず、会社自体にとっても必要となるだ。

そこで法は資本金という制度を設け、会社財産の確保を図った。

設立・株式発行に際して株主となる者によって払込み又は給付される財産の額が資本金の額とされ(445)、資本金の額は登記及び貸借対照表により公示される(911Ⅲ⑤、440)



株主資本の概念との差異

貸借対照表上、資本金、資本剰余金、利益剰余金及び自己株式を合計したものを「株主資本」という。従来、貸借対照表は、資産の部・負債の部・資本の部と分かれていたが、改正により、資本の部が「純資産の部」へと名称が変わり、純資産の部はさらに、株主資本と株主資本以外の各項目(評価・換算差額等、新株予約権)に区分される(計規108Ⅰ①)。

資本金は一定の数額であり、たえず変動する会社財産とは異なる。また、経済上の資本の観念とも異なり、自己資本であっても準備金(445Ⅲ)・剰余金はここにいう資本金には含まれない。



授権資本制度

定款には資本金の額は記載されず、会社が将来発行する予定の株式の数(発行可能株式総数)を定款で定めておき(37Ⅰ、II)、その「授権」の範囲内で会社が取締役会決議等により適宜株式を発行することを認める制度を、授権資本制度という。



授権資本制度の趣旨

株式の発行は既存の株主の利益に影響を及ぼすが、発行の都度株主総会決議を要求することとすると、市場の状況等に応じた機動的な株式発行を行うことができず、機動的な資金調達を阻害し、結局は株主のためにもならないおそれがある。そこで、会社法は授権資本制度を認めている。



授権株式数の制限

公開会社の設立に際しては、授権株式数の4分の1以上の株式を発行しなければならない(37Ⅲ本)。また、公開会社が定款の変更により既存の授権株式数を増加する場合、発行済株式総数の4倍までしか増加できない(113Ⅲ)。

授権株式数を制限する趣旨は、取締役会に無限の数の株式発行権限を認めることは取締役会の濫用のおそれがあると考えられること、授権株式数は授権後に登場する将来の株主の意思を反映していないこと等にある。また、授権株式数の制限は、新株発行により既存の株主が被る持分比率の低下の限界を画するという意味も有する。

ただし、公開会社でない会社の場合は募集による株式の発行に関する事項を株主総会の特別決議で決することから、発行可能株式総数を発行済株式総数の4倍以内にするとの規制は存在しない(37Ⅲただし書、113Ⅲただし書)。



資本金・株式・会社財産の関係

株主が間接有限責任しか負わない株式会社では、会社債権者にとって執行の対象となるのは会社財産だけです。そのため、会社財産が株主に払い戻されて、債権者が損害を被ることを防ぐ必要があります。そこで、株主が出資又は給付した財産の全部又は一部を資本金として、この資本金の額を基礎として、株主に対する剰余金の配当を制限しています(461Ⅱ①、446①二)。

また資本金を増加させることが債権者保護となるので、出資をともなって株式が発行される場合には、払込み価格の2分の1は必ず資本金に計上し、資本金の額が増加するようにしています(445Ⅱ)。

ただ資本金・株式・会社財産はそれぞれ性質が異なるので、その増減は原則として、相互に関連はありません。

・資本金:株主から過去に出資として払込み又は給付された財産の価格の全部又は一部を計上した会社の計算書類の計数
・株式:細分化され均一化した割合的単位の形をとった株式会社の社員たる地位
・会社財産:経営目的によって統合された資産・負債の総体

資本金と会社財産の関係に関して、両者の関係は切断されている。ただ、会社財産が剰余金の配当等により流出する場合には、資本金の額が分配可能額の基礎となり財産流出を制限する機能を持つ。

資本金と株式の関係に関しても、両者は切断されている。出資をともなって株式を発行する場合には、原則として、株式の数と資本金の額はともに増加するが、合併等の場合には、必ずしも資本金の額は増加しない。

また資本金の減少・増加によって株式数は増減しないし、株式の消却・併合・分割により資本金の額は増減しない。

株式と会社財産の関係に関しても、両者の関係は切断されている。出資をともなって株式を発行する場合には、資本金の額も会社財産も、ともに増加するが、それ以後は会社財産は随時変動する。株式の消却・併合・分割により株式数が増減しても会社財産は増減しない。



資本に関する原則

資本金制度は株主が間接有限責任を負うにすぎない株式会社において、会社財産を確保するために定められたものである。このような資本金制度の趣旨から、①資本充実・維持の原則、②資本不変の原則という2つの原則が導かれ得る。さらに、設立ないし増資の健全化を図るという見地から、③資本確定の原則が問題となる。

以下これらの資本原則について、個別的に検討する。



資本充実・維持の原則

資本金は会社財産を確保するための基準である一定の金額であるから、その額が名目的に定まるだけでなく、資本金の額に相当する財産が現実に会社に拠出され(資本充実)、かつ保有されなければならない(資本維持)という原則である。
(a)資本充実の原則
資本金の額に相当する財産が現実に会社に拠出されなければならないとする原則。
(b)資本維持の原則
資本金の額に相当する財産が現実に会社に保有されなければならないという原則。
(2)資本充実の原則の現れ
① 発行価額の全額払込み又は現物出資全部の給付の要求(34Ⅰ本、63Ⅰ、208ⅠⅡ、28ⅠⅡ)
② 現物出資等の厳格な検査(33、207、284)
③ 発起人・取締役・執行役の、現物出資の目的物価額が不足する場合の支払義務(52、103Ⅰ、213、286)
④ 現物出資・財産引受の目的物の価額を証明・鑑定評価した者の、不足額を支払う義務(52Ⅲ、213Ⅲ、286Ⅲ)
⑤ 募集設立の場合における払込取扱機関の払込金保管証明に伴う責任(64Ⅱ)
⑥ 株主の側からする払込金相殺の主張の禁止(208Ⅲ)

なお、明文の規定はないが、この原則の現れとして、労務や信用の出資の禁止及び払込義務の免除の禁止が挙げられる。



資本充実「責任」の廃止

旧商法下では、資本金の額に相当する財産が実際に会社に拠出されるようにするため、発起人等に払込担保責任を負わせる等して資本充実の原則を図っていました。

しかし、発起人の払込担保責任は廃止されました。とすると、もはや資本充実の原則は廃棄されたということになるのでしょうか。この点、弥永先生は発起人等の払込担保責任がなくなったことをもって、同原則は廃棄されたとしています。

すなわち、会社法の下では、資本金額に見合う会社財産を確保するというのではなく、むしろ拠出された財産の額に応じて資本金の額は決定される(445)というように発想の転換が行われているとするのです。

これに対し、立法担当者は「資本充実責任」は廃止されたが、「資本充実の原則」については、同原則が廃止されたとまでは言っていません。すなわち、実際に出資された財産の価額だけが資本金に算入される(445)ので、資本金の額に相当する財産は、必ず現実に会社に拠出されているという意味で、資本充実の原則は実現されているというのです。

では両者の関係はどう考えればよいのでしょうか。これは、「資本(金)」についての考え方が改正により変わったという点から導かれると考えられます。すなわち、旧商法下では、資本とは「枠」のようなものであったと考えてみるとわかりやすいでしょう。

債権者はこの「枠」を信頼するので、「枠」内に財産が拠出されていないと、信頼を害されることになります。しかし、会社法の下では「枠」はもう設定しません。実際に「払込み又は給付をした財産の額」が資本金となり、債権者はこの額を信頼します。したがって、資本充実の原則を「あらかじめ設定された枠の中に財産が入っていないといけない」という意味で捉えるなら、この意味での同原則は会社法下ではもはや存在しないことになります。弥永先生が言うのはそういう意味でしょう。

これに対し、同原則を「『資本金イコール実際に拠出されたお金』でなければならない」という意味で捉えると、445条により同原則は会社法の下でも維持されるということになり、立法担当者の意見は後者を指すものであると考えられます。

なお、前田先生は、払込担保責任が削除されたからといって資本充実の原則が緩和したということにはならないとしています。江頭先生も、資本充実の原則を前提にしていると考えられています。

では、これまで資本充実の原則の現れとされていた各種の制度はどのように解すればよいのでしょうか。たとえば現物出資等の不足額てん補責任(52、103)や払込取扱機関の保管証明責任(64Ⅱ)、募集株式の引受人の相殺禁止(208Ⅲ)等があります。

これらの点について立法担当者は、現物出資等の不足額てん補責任については資本充実に寄与する側面もあるが、そもそも「債権者保護のための制度ではなく、株式引受人間の出資に関する不平等を予防・是正するための制度」であると述べています。

また、払込取扱機関の保管証明責任については、払込みをした引受人の期待を裏切らないためのものであり、引受人の相殺禁止については、債権の現物出資に関する規制の潜脱を防ぐ趣旨であるとしています。

したがって、会社法の下では、必ずしも資本充実にこだわった論証をする必要はないと考えられます。



資本維持の原則の現れ

以下の点に資本維持の原則が現れていると考えられる。 ① 剰余金の配当・自己株式の取得等において資本金の額を基準とした財源規制があること(446①、461Ⅰ、166Ⅰ、170V、464、465)
② 分配可能額を超えて取締役等が剰余金の配当等を行った場合の責任(462Ⅰ、463)
③ 準備金の積立て(445Ⅳ)と分配可能額(461Ⅱ)

なお、明文の規定はないが、この原則の現れとして、払込金の払戻禁止、及び債務超過の会社との合併はすることができないということが挙げられる。



資本不変の原則

「資本不変の原則」は、いったん確定された資本金の額は、任意に減少することはできないという原則である。

会社財産の維持を図るための標準となる資本金自体の減少が自由に許されるならば、それに伴って会社財産も減少することになるから、資本維持の原則は無意味に帰してしまう。そのため、いったん定められた資本金は、自由にその減少を許さないという資本不変の原則が要求されるのだ。

ただ、実際上の必要性から厳格な手続きの下に資本金の額の減少も認められている(447、449)。なお、449条5項では、資本金の額の減少をしても債権者を害するおそれがないとき(たとえば、会社が債務不履行に陥ることなく、すべての債務を履行することができるとき)には、債権者保護手続の中で資本金の額の減少に異議を述べた依権者がいたとしても、弁済等の措置が不要であると定められ、資本減少のための厳格な手続きが債権者保護を趣旨とすることが明らかになっている。
会社法第447条(資本金の額の減少)

1 株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する資本金の額
二 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
三 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
2 前項第一号の額は、同項第三号の日における資本金の額を超えてはならない。
3 株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第一項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。

会社法第449条(債権者の異議)

1 株式会社が資本金又は準備金(以下この条において「資本金等」という。)の額を減少する場合(減少する準備金の額の全部を資本金とする場合を除く。)には、当該株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができる。ただし、準備金の額のみを減少する場合であって、次のいずれにも該当するときは、この限りでない。
一 定時株主総会において前条第一項各号に掲げる事項を定めること。
二 前条第一項第一号の額が前号の定時株主総会の日(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。
2 前項の規定により株式会社の債権者が異議を述べることができる場合には、当該株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第三号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 当該資本金等の額の減少の内容
二 当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
三 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
3 前項の規定にかかわらず、株式会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。
4 債権者が第二項第三号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該資本金等の額の減少について承認をしたものとみなす。
5 債権者が第二項第三号の期間内に異議を述べたときは、株式会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等(信託会社及び信託業務を営む金融機関(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和十八年法律第四十三号)第一条第一項の認可を受けた金融機関をいう。)をいう。以下同じ。)に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該資本金等の額の減少をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
6 次の各号に掲げるものは、当該各号に定める日にその効力を生ずる。ただし、第二項から前項までの規定による手続が終了していないときは、この限りでない。
一 資本金の額の減少 第四百四十七条第一項第三号の日
二 準備金の額の減少 前条第一項第三号の日
7 株式会社は、前項各号に定める日前は、いつでも当該日を変更することができる。

資本確定の原則

設立ないし増資の健全化を図るため、設立又は資本金の増加には、定款所定の資本金の額又は増加資本金額に当たる株式全部の引受けがなされなければならないという原則をいう。しかし会社法は、機動的な資金調達の便宜を図るために授権資本制度を採用した結果、資本金の額を定款の記載又は記録事項とはしていない(27参照)。

江頭先生は、会社の設立にあたり、定款で設立に際して出資される財産の価格またはその最低額を定め、その額の出資がなされることを要求する範囲でのみ、資本確定の原則が残存していると主張している(江頭・116頁)。

旧商法は、授権資本制度(授権株式数制度)の下、定款に設立に際して発行する株式数を記載又は記録させ、その分については引受けの完了を要求していたから、その点では依然として資本確定の原則に従っていたといえる。しかし会社法は、設立時にも払込みや給付がない場合は引受け・払込みがあった部分だけで設立することを認めたので、資本確定の原則は採られていない。



最低資本金

旧商法の規律において、資本充実・維持の原則は資本の枠に対応する財産が保有されることを要求することで、会社財産確保を図るものであるが、資本の枠自体が小さければ、会社財産を確保して会社債権者を保護するという目的を達成できない。

また会社財産があまりに少額であっては、会社の事業経営も困難となる。そこで、旧商法は、平成2年改正により最低資本金制度を導入し、株式会社の資本の額は1,000万円以上であることが必要とされた(旧168ノ4) 。

会社法は、最低資本金制度を廃止した。そのため、資本金が0円であっても設立可能である。出資額は1円以上である必要があると解されるが、資本金の額は設立費用等を差し引いて定めることとされ、最初の資本金の額が0円になってもよいとされている(計規74Ⅰ)。



最低資本金の廃止

前述の通り、旧商法下では、資本金の額は1,000万円を下ることはできないとされていた(旧168ノ4)。 しかし、債権者保護のためには、最低資本金規制よりも、会社の財産情報の適切な開示及び会社に財産が留保されることの方が重要である。

そこで、より容易に株式会社の設立をすることを可能にするため、会社法の下では最低資本金制度は撤廃された。過少資本の会社も登場することから、法人格否認の法理や取締役の対第三者責任(429)の積極的活用により、債権者保護が図られることになる。

なお剰余金配当を行うことができるのが、株式会社の純資産額が300万円以上である場合に限られる(458)のは、有限会社における最低資本金制度のなごりである。その趣旨は最低資本金が撤廃されたことと関連して、財産の不当な流出を防止するために資本金額とは無関係に純資産額による規制を行うものである。
会社法第458条(適用除外)

第四百五十三条から前条までの規定は、株式会社の純資産額が三百万円を下回る場合には、適用しない。



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