裏社会の情報戦略とは?アンダーグラウンド錬金術の脅威と対策:デジタル時代の新たな挑戦

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デジタル時代における個人データの重要性がますます高まる中、私たちは日々新たな挑戦と議論に直面しています。アンダーグラウンドで繰り広げられる錬金術から始まり、ネット詐欺の最新手口、そしてビッグデータの革新的な活用事例まで、さまざまなテーマが私たちの関心を引きつけます。

ネット犯罪の巧妙化に対抗するための対策や、ヤミ金時代のノウハウが現代の特殊詐欺にどう生かされているのか。また、元暴力団組長が語る特殊詐欺の裏側や、ビッグデータが未来のビジネスにどう役立っているのかについても知りたいところです。

データビジネスで成功するための秘訣や、金融業界における革新的なデータ活用の取り組み、さらには情報銀行の挑戦とその現状についても議論が広がっています。特に、個人情報の売買が季節によってどう変化するのか、そしてプライバシー議論がどのように進展しているのかについて、深く考えてみたいと思います。

このように、個人データの時代が到来し、その価値とリスクがますます明確になってきました。市場理解と戦略策定がビジネス成功の鍵を握る今、私たちはどのようにして個人データを活用し、社会に貢献していくのでしょうか。これからのデジタル社会において、個人のプライバシーとデータ活用のバランスがますます重要となってくることでしょう。



アンダーグラウンド錬金術


調査会社が収集した情報で名簿を作成し、アウトローたちは稼ぎまくっています。「ルフィ事件」で注目を集めた特殊詐欺グループにとって、名簿は命ともいえる重要なものです。

東京・渋谷にあるオフィスビルの一室には、20代から30代と思しき男女が30ほどのデスクに並び、ひっきりなしに電話をかけながら、手元の紙に何かを書き込んでいます。一見すると普通のコールセンターのようですが、実はここは特殊詐欺用の名簿を最新データに更新する会社のオフィスなのです。

特殊詐欺は情報がなければ成立しません。名簿の質や精度、鮮度によって成功率や詐欺の金額が左右されるため、このオフィスでは名簿の常時更新が行われています。以前は外部の「名簿屋」から仕入れるのが一般的でしたが、最近では詐欺グループが自前で名簿を作成するケースも増えています。

この会社は、都内を拠点に活動する詐欺グループの幹部が設立したもので、新規の名簿作成も行っています。表向きは情報調査会社として一般企業にも名簿を販売しており、アルバイトたちは求人サイトで集められた普通の人々です。彼らはリーダーの指示に従い、淡々と電話業務をこなしているだけで、詐欺に加担しているとは思っていません。

アルバイトたちは、「厚生労働省から委託されて健康調査を行っている」といった説明を受けた上で、住所や氏名、年齢、職業、年収、家族構成、健康状態などを詳細に聞き出します。この情報は詐欺グループの担当者によってデータ化され、細かくジャンル分けされた名簿としてパッケージ化されます。

たとえば「認知症気味の高齢者リスト」や「過去に騙された経験のあるカモリスト」、「投資に関心のある富裕層リスト」などが作成され、詐欺グループで活用された後、別の詐欺グループに販売されることもあります。こうして得られた名簿は、最終的にはオレオレ詐欺、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺など、さまざまな詐欺に利用されます。

元暴力団員でヤミ金ビジネスを手がけていた実業家のキム・ホンチ氏によれば、特殊詐欺の基本は情報の質と鮮度にあります。古い名簿を使い回すグループはすぐに行き詰まる一方、情報収集に惜しまず投資する組織は成長を続けるといいます。

名簿データの売買価格はピンキリで、通信販売の顧客データは数万人分で数十万円程度ですが、証券会社の高額取引者の名簿は数十人分でも数百万円で取引されることがあります。新鮮なデータを手に入れるためには、多くの労力と時間が必要であり、企業の社員を籠絡して大量のデータを持ち出させるケースも少なくありません。

2023年10月、NTTマーケティングアクトProCXからNTTビジネスソリューションズに派遣されていた社員が、約928万件の個人情報を盗み出し、名簿業者に販売して約1000万円の報酬を得ていた事件が公表されました。この事件に詐欺グループが直接関与していたかは不明ですが、従業員を使って顧客データを盗ませることは日常茶飯事です。

このように情報と協力者の熾烈な争奪戦が繰り広げられる中で、特殊詐欺グループは常に情報を更新し続けています。情報を駆使して大金を稼ぐ詐欺グループを狙っているのは警察だけではなく、「タタキ集団」と呼ばれる強盗集団も存在します。詐欺グループから利益を奪い取ることを目的とした彼らは、特殊詐欺を行う人々から強奪しても警察に通報される可能性が低いと考えています。

この世界では、詐欺グループが稼いだ現金を狙った襲撃が頻繁に起こり、命を落とすこともあります。まさに弱肉強食の世界であり、そこが一般のビジネスとの大きな違いです。こうしたタタキ集団にとっても情報は命であり、常に新しい情報を嗅ぎ回っています。



ネット詐欺の最新手口と対策:SIMスワップとフィッシング詐欺の危険性


インターネットバンキングによる不正送金の被害額が過去最高に達し、ネット詐欺の被害が増え続けています。

銀行では、一定時間ごとに発行され、一度きりしか使えないワンタイムパスワードの導入など、さまざまな対策が取られていますが、それでもいたちごっこの状況が続いています。新たな手口が次々に登場するためです。最近では、海外で流行していた「SIMスワップ」が日本にも上陸しました。この手口は、携帯電話のSIMを乗っ取った後、そのSIMで受信できるショートメッセージなどを使って二段階認証を突破するというものです。攻撃対象の個人情報を事前に調査し、身分証明書を偽造して携帯電話会社に「SIMをなくした」と偽って再発行させるなど、非常に手の込んだ方法です。

フィッシング詐欺も依然として多く見られます。送信者を詐称した電子メールを送りつけ、偽のホームページに接続させることでクレジットカード番号やアカウント情報を盗み出す手法です。犯人は大量のメールをランダムに送りつけるため、誰もが被害に遭う可能性があります。最近のフィッシングメールは非常に精巧に作られており、被害に遭う人が減らないのも無理はありません。

「パスワードリスト型攻撃」の被害も依然として多く見られます。攻撃者はダークウェブなどで不正に入手したIDやパスワードを利用し、不正アクセスを試みます。同じIDとパスワードを使い回している人が多いため、被害が減らないのです。対策としては定期的にパスワードを変更することが推奨されますが、多くの人が「面倒だ」「いくつも覚えられない」という理由で変更しません。

こうした問題を解決するために、最近ではパスワードに代わる認証システムが登場しています。生体情報を用いた「パスキー」です。指紋や顔などの生体情報で認証を行い、使用デバイスのロック解除機能を利用します。これにより、パスワードリスト型攻撃やフィッシングにも強くなります。しかし、デバイスのメーカーがこの機能を装備しなければ使えません。今後、この認証システムが普及すれば、ネット詐欺の被害が抑制されることが期待されます。



ヤミ金時代のノウハウが生きる!特殊詐欺の現状とその進化


特殊詐欺が減少する気配はなく、その背景にはヤミ金時代のノウハウが引き継がれていることがあるようです。元暴力団員でヤミ金業者だったキム・ホンチ氏によれば、ヤミ金業者は金を貸す際に本人だけでなく、配偶者や親兄弟の氏名、職業、連絡先などの情報を収集し、それが特殊詐欺の名簿の原型となったといいます。1990年代前半、暴利をむさぼるヤミ金業者が社会問題となり、2003年に制定されたヤミ金融対策法により多くのヤミ金業者が壊滅しましたが、そのノウハウは特殊詐欺に引き継がれました。

例えば、顧客とのやり取りを電話のみで行い、貸付や返済を銀行振込で行う手法、詐欺対象選定に名簿を利用する手法はヤミ金業者の時代からのものです。ヤミ金業者として働いていた者たちはトークスキルを磨いており、その技術も特殊詐欺で活かされました。キム氏は、暴力団を締め付けた結果、ヤミ金がなくなり、その代わりに半グレと呼ばれる更にタチの悪い勢力が力を持つようになったと指摘します。これが特殊詐欺の広がりの一因とも言えるでしょう。

特殊詐欺は、単純な「オレオレ詐欺」から始まり、現在では20種類以上あると言われています。元詐欺グループの一員で、犯罪に使われることが多いIP電話を売り歩いていた角谷渉氏は、詐欺の根底には「だまし取るよりも脅し取る」という発想があると語ります。彼はかけ子が電話する様子を何度も目撃しており、その口調はほとんど恐喝だといいます。相手が金の支払いを渋ると、若い者を送り込むぞと脅すこともあり、それはヤミ金の取り立てと同じ手法だと言います。脅して金を払わせる手法もヤミ金のDNAが残っている証拠です。

特殊詐欺の組織は進化を遂げ、実行部隊は完全な分業体制になっています。名簿を手に入れ指示を出すトップ、電話をかける「かけ子」、被害者から現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」、ATMから金を引き出す「出し子」、働く人間を集める「リクルーター」などがそれぞれの役割を担い、プロジェクトごとにメンバーが入れ替わるため、摘発されても上部組織に捜査の手が及びにくくなっています。

また、詐欺で得た金の分配も徹底されており、駅の暗証番号付きロッカーを使って顔を合わせずに分配します。指示役はSNSを使って闇バイトを募集し、全ての指示をSNSで行うことで、万が一受け子や出し子が捕まっても組織上部に捜査の手が及ぶ可能性を低くしています。

近年は特殊詐欺グループの収益が減少し、アポ電強盗などの短絡的で荒っぽい犯罪が増えています。これは、かけ子の能力が低下し、グループの収益が減少したためです。収益が減少すると、グループの最上位にいる人間からの上納圧力が強まり、カネを払わなければ命まで取られるという恐怖に駆られて強行犯罪に走るのです。

警察は特殊詐欺グループの摘発に力を入れていますが、組織の進化により取り締まりが追いつかず、被害は広がるばかりです。最近では、詐欺や投資から離れ、居酒屋や風俗店の経営、薬物の売買など、人と物が見える商売に回帰する連中が増えています。しかし、一度でも詐欺などに手を染めた者が一般社会で地道に働くことは難しく、再び犯罪に手を出す可能性が高いです。その際、過去に手に入れた顧客名簿が再び利用されることになるでしょう。



元暴力団組長が明かす!特殊詐欺と情報戦の裏側


暴力団の元組長であり、2015年12月まで国際金融市場で暗躍していた「猫組長」こと菅原潮氏が、裏社会で生き抜くための情報の重要性について語りました。

アウトロービジネスの現状について、菅原氏は「ここ数年、儲けている組織や人間と全く稼げていない者たちの二極化が進んでいる」と述べています。特に特殊詐欺の世界では、質の高い情報を持つ組織は稼げますが、劣化した名簿しか持たない者たちは稼げなくなっているそうです。「ルフィ事件」のような詐欺名簿を使った強盗が頻発しているのも、詐欺で食えなくなった負け組が短絡的に犯行に及んでいる結果だといいます。

質の高い情報、つまり最新かつピンポイントの名簿は価値が高いです。菅原氏は「高級車レクサスや高級腕時計の購入者名簿を使った方が成功率は格段に高くなる」と話します。特に今、詐欺業界で最も値打ちがあるとされるのは、証券会社や保険会社の顧客名簿と暗号資産の交換者名簿です。銀行の顧客名簿はほとんど見たことがないそうですが、証券会社の顧客名簿は多方面に出回っており、その鮮度が鍵となります。

菅原氏が暴力団時代に大きな収益を上げていたのは、企業の未公開株上場などのインサイダー情報をひそかに入手し、それを基に株の売買をしていたからです。こうした情報は企業の内部の人間から流出するもので、1次ソースにいかに早く近づけるかが最も重要だといいます。時間が経つほど情報は劣化し、数撃てば当たる方式の特殊詐欺は二流、三流のやり方だと評しています。

協力者をつくる方法について、菅原氏は「銀座のクラブなどで大企業の人間に近づき、人間関係を構築する方法もあるが、私の場合、有能そうな大学生を青田買いして育てる方法が好きだった」と語ります。海外のゲストハウスなどで有能な学生に声をかけ、関係を深め、最終的には忠実な協力者に育て上げるそうです。こうして築いた人脈から得る情報は非常に価値が高く、多くの収益を上げてきました。

犯罪集団にとって情報の収集と同様に重要なのがマネーロンダリングです。かつて菅原氏はマネロンを手がけていましたが、現在は足を洗っています。世界的な規制強化により暴力団は困難な状況にありますが、仮想通貨の登場により新たな方法が生まれました。仮想通貨は匿名性が高く、国境を越えての資金移動が容易です。

菅原氏は、「最終的に信じられるのは現金。国が保証している貨幣が最も安心だ」と述べています。また、情報についても「生の情報に勝るものはない」と強調します。裏社会で生き抜くためには、質の高い情報とその鮮度が何よりも重要であると菅原氏は語ります。



ビッグデータ活用の成功事例5選:LINEヤフーやJR東日本が見せる未来のビジネス


ITの進歩により、大企業が眠らせていた資産が次々と日の目を見ています。「情報は21世紀の石油」と言われるように、各業界のトップランナーは事業を通じて蓄積したビッグデータを外部に提供し、ビジネスに活かしています。今回はその中でも注目の5社をご紹介します。

まずはソフトバンクです。ソフトバンクが運営するAI需要予測サービス「サキミル」は、小売りや飲食店の経営を大幅に効率化します。店舗側が日々の客数や売上を入力すると、AIが来店客数と売上予測を翌日から2週間先まで実数で提供します。予測精度は驚異の90%にも達し、経営者はそのデータを元に適切な発注を行え、必要なスタッフの人数も把握できるようになります。このサービスは、数千万台分の携帯電話位置情報と日本気象協会のデータを掛け合わせることで精緻な予測を実現しています。料金も手頃で、中小企業や個人経営の店でも利用しやすい価格設定です。例えば、高級チョコレートチェーン「ゴディバ」は全国約300店舗で「サキミル」を導入し、発注作業の自動化に成功。省力化により年間約1万3000時間を創出できる見込みです。

続いてLINEヤフーです。2023年12月、ECサイト「ドットエスティ」のトップページに「ハレの日」と書かれたバナーが現れました。これはLINEヤフーの分析ツール「DS.INSIGHT」によるトレンド分析を元にしたもので、消費者の検索履歴を解析し、行事のシーズンに先回りして需要を捉えることができます。例えば、「入学式 服」といった検索が12月から増加し始めることがわかり、その時期に商品を特集することで売り上げが増加します。このツールは年代や性別、地域のデータも匿名化して提供し、新製品開発のターゲット分析にも有効です。また、官公庁や教育機関からの引き合いも多く、住民ニーズの把握や研究での利用にも役立っています。

次はJR東日本です。JR東日本は「Suica」データを活用し、駅ビルの出店計画や商圏分析に利用しています。首都圏600駅の利用状況を匿名統計化し、月ごとのリポートを販売する「駅カルテ」を提供しています。これにより、駅ごとの利用人数や属性を把握し、デベロッパーや商業施設の出店計画に役立てています。さらに、どの駅からどの駅へ移動するかを地図上に表示し、観光地のプロモーション先決定にも活用されています。

NTTデータもビッグデータの活用において注目されています。「BizXaaS MaP人流分析」は、建物や道路ごとに時間帯別の人数推移を提供し、徒歩や車両での移動まで把握できる精度の高いサービスです。NTTドコモの8500万台分の位置データと、外部から購入した約120アプリ分のGPS情報を組み合わせ、緻密な人流推計を実現しています。商業施設の階ごとに人の流れを把握できるレベルまで進化させる計画もあります。

最後に三井住友カードです。同社はクレジットカードの決済情報を利用したデータ分析支援サービス「カステラ」を展開しています。実際の購入履歴からマーケティング戦略を導き出せるため、アンケートなど従来の市場調査よりも信頼性が高いと評判です。自社の約1300万会員のデータに加え、他社カードのデータも活用し、インバウンド客の消費動向も追跡可能です。分析から施策の提案までを一気通貫で行うこのサービスは、三井住友銀行の営業網を活用し、顧客企業の課題を的確に解決します。

これら5社の取り組みはまだ本業には及ばないものの、今後の成長が期待されています。ビッグデータの活用が社会全体に浸透し、今後さらに広がっていくことでしょう。どの企業が先行者利益を得るのか、競争は激化しそうです。



ネット広告のプロが語る、ポストクッキー時代のマーケティング戦略


世界中で規制が進む「クッキー」。これは、ブラウザーに保存されるウェブサイトの閲覧履歴を指します。2024年には、米グーグルが広告配信に使われるサードパーティークッキーを廃止する予定です。この動向が企業のマーケティングにどのような影響を与えるかについて、ネット広告代理の老舗であるオプトの執行役員、岩本智裕氏が語ります。



サードパーティークッキー廃止の影響

これまで、サードパーティークッキーはターゲティングや広告効果の計測・分析に活用されてきました。しかし、グーグルがこれを廃止することで、自社サイトを訪れたユーザーを別のサイトの広告枠まで追いかけて再訪を促す「リターゲティング広告」が使えなくなります。さらに、広告の効果が見えにくくなるため、運用にも悪影響が出るでしょう。

アップルなどのブラウザー各社はすでにクッキー規制を進めており、その影響で広告費が高騰しています。ネット広告の需要増加だけでなく、ユーザーを追いかけられないことによる配信効率の低下も一因です。ブラウザー各社は代替手段を示しており、今後もさまざまなソリューションが登場するでしょうが、従来のネット広告と比べてどれだけの成果が得られるかは未知数です。

ネット広告代理店の努力により、一定の運用水準が維持されてきたため、多くの企業経営者はこうした状況に気づいていないことが多いです。むしろ、企業からの要求は「ネット利用量が増えているから、同じ予算で成果を10%増やしてほしい」といった具合に高まっています。しかし、グーグルによるサードパーティークッキー廃止のインパクトは、代理店の努力だけでは解決できないでしょう。



遠回りなKPIの重要性

今後もマーケティングの成果を維持・向上させるためには、企業は新たな姿勢を求められます。例えば、「ニキビに悩む人にしつこくニキビ対策の広告を表示する」といった単純な方法ではなく、より長期的な視点で消費者との接点を構築する必要があります。ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)が展開するスコア管理のスマホアプリは、その好例です。このアプリのダウンロードは無料ですが、その体験を通じて「GDOって素敵だね。次にゴルフ場へ行くときは楽天ではなくてGDOから予約しようか」という流れが生まれています。



考え方の180度転換が必要

クッキー時代の近視眼的な手法に頼ってきた企業は、考え方を根本的に変える必要があります。商品購入という最終的なコンバージョンを唯一の指標とせず、その手前のKPIとして、自ら「マイクロコンバージョン」を設定する力が求められます。GDOのようなアプリ運営や事業に関連した診断サービス、LINEの企業アカウントで消費者と友達になることなど、多様な手段があります。

最近ではチャットGPTが登場し、検索や動画、SNSといった広告を取り巻く環境も急速に変化しています。こうした変化を恐れず、常に新しい状況に対応するマインドがマーケティングにおいては重要です。



データビジネスで成功するための秘訣


多くの企業が従来の主力事業の成長に限界を感じる中、新たな事業の立ち上げが急務となっています。特にコロナ禍以降、企業の新規事業立ち上げにはデータを活用したデータビジネスへの注目が集まっています。SNS事業者が無料サービスを通じて収集したデータで莫大な収益を上げる様子を見て、「ビッグデータは宝の山」という認識が広まりました。

しかし、これまでデータビジネスは一部のネット企業の専売特許と思われていました。そのため、多くの企業はビッグデータを収益化するものではなく、経営管理の高度化や業務効率化、顧客や市場の把握に活用するものと考えていたのです。コロナ禍を契機に企業のデジタル化が急速に進展し、データ分析ツールの普及と価格低下が進んだことで、従来よりも高度なデータ分析が可能となり、新サービスや新規事業を検討する企業が増えています。

データを活用して利益を生むには、三つの段階があります。第一段階はデータを使った新サービスを既存サービスに追加する形、第二段階はデータを生かして他社の商品やサービスの販売仲介もしくは販売を行う形、そして第三段階はデータを活用して新規事業を立ち上げ新たな収益源を創出するというものです。

自社のデータを他事業者に販売する方法もありますが、これはあまり儲からないのが現実です。データの価値はその用途が明確になって初めて生まれるため、何に使えるか分からないデータは売買が成立しづらいのです。また、データは企業にとって重要な経営資源ですが、その活用方法やマネジメント手法はまだ発展途上です。

データは「取得・蓄積・分析・管理に多大な時間とコストがかかる」「陳腐化しやすく常に鮮度維持が必要」「所有するだけでは収益を生まない」「活用方法を間違えると企業の存続を脅かすリスクを持つ」などの特性があります。特に収益を上げようとすると、データのクセの強さが障壁となります。

データビジネスは新規性が高いため、試行錯誤が必要で不確実性が高いです。特に第三段階のデータビジネスである「新規事業の展開」は、大きな先行投資が必要であり、確実にリターンがあるかどうかが不透明です。そのため、データビジネスを始めようとする企業は多いものの、ROI(投下資本利益率)が見通せず二の足を踏むケースも少なくありません。

では、クセの強いデータをどのように収益化するのでしょうか。それは、1. データビジネスのアイデアをつくる(広げる)、2. データビジネスを事業化する(形にする)、3. 事業として儲けを出す(マネタイズする)の三つのステップで進めることが有効です。

第一ステップでは、自社で所有するデータの価値を再定義し、新たに分かることやインサイトを明確にします。そして、データの使い道を発見し、「誰のどのような課題を解決するのか」を決めることが重要です。この段階では、データが実際に解決できる課題には五つのパターンがあることを理解しておく必要があります。

第二ステップでは、第一ステップで検討したアイデアのビジネスモデルを考えます。誰のどんな課題をどうやって解決し、誰からお金をもらうのかを検討するのがこの段階の課題です。データビジネスのビジネスモデルは四つのパターンに絞られるため、このパターンに沿って検討することが成功への鍵です。

第三ステップでは、自社にないアセットやケイパビリティーについて他事業者と連携し、スピードを重視して事業を立ち上げ、収益を上げることが重要です。

データビジネスがすぐに黒字化するケースは少なく、大手SNS事業者でさえ数年規模の時間を要しています。計画通りに進むことは少ないため、仮説を立てて市場で実際に検証を繰り返す臨機応変な事業推進が求められ、経営層の関与が成功の鍵となります。

ネットビジネスから始まったデータビジネスは、消費者の購買データが集まる小売り・サービス分野や膨大な保健医療データが集まる医療分野などに広がっています。無関係と思われたスポーツ分野でも、スポーツベッティングなどでデータビジネスが始まっています。

経済産業省によれば、米国や欧州の高収益企業はソフトウェアの研究開発や知的資産など無形資産への投資割合が高い一方で、日本企業は工場や設備など有形資産への投資割合が高く、この差が収益力の違いを生んでいると考えられています。データビジネスへの投資は無形資産への投資であり、設備や工場よりも中長期的な競争力向上につながるでしょう。



金融業界の未来を切り開くデータ活用の取り組み


「データを活用できない事業者は今後の生き残りが難しいでしょう。金融業界の発展にはデータの活用が不可欠です」と、2024年1月18日の夜、前金融庁長官の中島淳一氏がオンラインで約300人に向けて熱弁を振るいました。これは金融関連企業を対象にしたAI活用コンペの開会イベントでの一幕です。

このコンペは、金融関連企業の業界団体である「金融データ活用推進協会」が主催し、金融に関する情報の解析能力を競います。課題は、大量の架空企業データを分析し、ローンの返済可否を予測するAIを作ることです。今年で2回目の開催となり、昨年は他業種や学生を含む計1658人が挑戦しました。

すべての参加者がデータの扱いに長けているわけではなく、ノウハウや制作ツールの提供を通じて初心者の応募も呼びかけています。上位入賞者にはプロ級もいますが、経験値に応じた賞も用意されており、前回は初めてAIに触れた人の入賞も見られました。

推進協会は2022年6月に設立され、約230社が参加しています。メガバンクや大手証券会社、大手損保など、業界の主要企業が顔をそろえています。同協会の代表理事である岡田拓郎氏(38)は、「今、日本で最も勢いがある業界団体です」と自信を示しています。

この盛況の背景には、業界全体の危機感があります。2000年代後半に始まったAIブームを契機に、多くの企業がデータ活用を試みました。しかし、「ディープラーニング」は結論を出すのみで、その過程や根拠が不明なため、金融機関のビジネスには相性が悪かったのです。その結果、情報活用の機運はしぼみ、関連部署の仕事は減少し、中途採用したデータサイエンティストたちも辞めていきました。

金融機関の保有データは宝の山であり、協力できる部分では手を取り合い、業界全体で活用を進めるべきです。三菱UFJ信託銀行などを経て、現在はデジタル庁で勤務する岡田氏が各企業を説得し、協会の設立にこぎ着けました。

まずはデータを扱える人材の確保が急務です。すでにできる人材をさらに磨くと同時に、素養のある人を現場から発掘したいと考えています。これがコンペ開催の真の目的であり、岡田氏は「金融界のニューヒーロー・ヒロインを探す舞台」と表現しています。

参加企業による成功事例の共有も促進しています。月2~3回の会合で社内の取り組みを発表し合い、2022年2月には7つのケースを収めた書籍も出版されました。SBIホールディングスや三菱UFJ銀行など計16社が執筆に参加し、事例解説動画のネット配信も行っています。

共有範囲は、クレジットカード不正利用の防止策などの「守り」から、顧客情報の解析によるターゲティングなどの「攻め」まで広がっています。例えば、大量の口座や資産情報をAIに学習させることで、「人物Aは国内株式を8割の確率で購入するが、投資信託には興味がない」といったリストを作成でき、従来の漠然とした営業先決定と比べて効率化されるのは一目瞭然です。今後、こうした共有事例を100件程度まで増やす方針です。

縦割り意識が強い金融業界で、このような会社横断型の取り組みが成功すれば、画期的なことになるでしょう。



情報銀行の挑戦と現状


2018年10月、総務省の地下講堂は熱気に包まれていました。集まった約200社、400人超のビジネスパーソンが、「情報銀行」認定制度の概要を知るために参加したのです。この日は総務省と日本IT団体連盟(IT連盟)による説明会で、翌年の本格的な開始を控えての開催でした。

情報銀行の仕組みは、まず個人からさまざまな情報を預かり、それを本人が同意した範囲で企業へ有償で提供し、個人は対価として換金可能なポイントなどの便益を受け取るというものです。データ保護の信頼性を担保しつつ、流通を促進させることが狙いでした。この理念のもと、国が発案し指針を作成、IT連盟が事業者の審査と認定を行います。説明会に企業が殺到した事実は、当時の期待感の大きさを物語っています。

しかし、約5年が経過した現在、認定を受けた企業は4社、そのうち実際に事業を続けているのは2社にとどまります。過去には他に4社が認定を受けましたが、いずれも撤退するか事業化に至らなかったのです。広がらなかった理由の一つは、国が定めた指針が個人保護を重視しすぎるあまり、事業者側に過度な負担を課していることです。提供先で情報漏洩や不適切な利用が発覚した場合、事業者は個人への賠償責任を負う必要があります。ある金融機関の関係者は、「リスクを考えて認定申請を断念した」と明かしています。

とはいえ、IT連盟の認定は「国のお墨付き」を得られるだけで、事業に必須ではありません。実際、三菱UFJ信託銀行は認定を申請しないまま、2021年7月にアプリ「Dprime(ディープライム)」を開始しました。資産額や家族構成、趣味嗜好などの幅広い個人データを扱う、まさに情報銀行の王道を行くサービスです。

しかし、「生データにはあまり需要がない」という現実に直面しました。情報を手に入れても使い道がわからず、自前で分析できない企業が大多数だったため、結論がわかる「加工品」が好まれる傾向にありました。現在は、約5万~10万人のアクティブユーザーを対象にしたアンケートやインタビューでの調査が事業の軸となっており、業態はリサーチ会社に近くなっています。

このように情報銀行は、データ需要の伸び悩みが原因で、個人が情報を提供するメリットが薄れ、人も企業も集まらないという悪循環に陥っています。一方、三井住友銀行は発想を転換し、病院の診察結果や投薬履歴などを預かるアプリ「wellcone(ウェルコネ)」を2023年に始めました。このアプリは情報の第三者提供ではなく、健康管理や通院支援の対価として個人側に課金するという新たな形態を取っています。

多くの関係者は「情報銀行は時代を先取りしすぎた」と語ります。IT連盟の別所直哉理事は、「情報を個人で引き出し、移動させる『データポータビリティー権』が日本では法的に確立されていない」と指摘します。つまり、データ移転が社会の前提となっていないのに、仕組みだけが先に作られてしまったのです。

個人情報の利活用が進み、その価値が最大化される近未来でこそ、情報銀行は輝くのかもしれません。



アクティビストの狙い撃ち:鳥越製粉のケース


2023年1月19日、福岡市に本社を置く中堅製粉企業、鳥越製粉に対して、アクティビスト(物言う株主)である香港の投資会社リム・アドバイザーズが株主提案を行いました。これまでアクティビストのターゲットは東京証券取引所のプライム市場に上場する企業が主でしたが、今回はスタンダード市場の地場企業に目を付けたのです。鳥越製粉自身も驚きを隠せず、22日に記者が確認の電話を入れたところ、IR担当者は「受けているか知りません。確認します」と慌てた対応を見せました。

リム・アドバイザーズが問題視しているのは、鳥越製粉の低いPBR(株価純資産倍率)です。常に0.4倍前後で、解散価値の1倍を割ることが常態化している点が問題とされています。鳥越製粉は自己資本比率が79.9%と高く、現預金が80億円、投資有価証券を合わせた有価証券が125億円と、流動性の高い運用資産が総資産の半分弱を占めています。リムは、このような状況を資本効率の悪化と見なし、低PBRを放置していると批判しています。

さらに、リムは鳥越製粉が買収防衛策を導入していることも問題視しています。「PBRが1倍を割れたまま買収防衛策を導入するのは上場企業としてふさわしくない」という投資ファンド関係者の声もあります。リムは個別の案件には回答しないとしていますが、関係者によれば自己株買いや増配などの株主還元策、持ち合い株式の売却、資本コストや取締役報酬の開示を求めているとのことです。

東証もPBRの低い企業について問題視しており、上場企業に改善を促しています。2023年3月、東証はプライム市場とスタンダード市場の全上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営を要請しました。特にPBRが1倍を割れている企業には、具体策の実行と開示を強く求めています。

この背景には、アクティビストや投資ファンドの影響があります。日本取引所グループの山道裕己代表執行役グループCEOが東証の社長を務めていた際、海外の投資ファンドの幹部と頻繁に接触し、日本市場に対する意見や要望をヒアリングしていたとされています。海外の投資ファンドは旧東証1部に上場する企業数やPBR1倍割れ企業が多いことを問題視しており、そのため山道氏は市場区分の再編を行い、次にPBR1倍割れ企業対策を掲げたのです。

低PBR企業はアクティビストたちの格好のターゲットとなります。株主提案が通れば株価は大きく上昇し、通らなくてもアクティビストが株を取得するだけで株価は上がるためです。実際、鳥越製粉も2024年1月22日の正午過ぎから株価が急騰し、640円近辺をうろついていた株価が一時666円まで上昇、その後は700円近辺で推移しています。

アクティビストたちは公開情報を基にターゲット企業を見つけ出します。ある幹部は、「公開情報に基づいてスクリーニングし、対象企業を絞り込んでいる」と明かしています。特にPBR1倍割れ企業は問題が多いため、株価が割安で上昇幅が大きく見込めるからです。また、現預金や不動産、有価証券といった本業とは関係のない流動性の高い資産を多く保有している企業も狙い目とされています。

東証は2024年1月15日、コーポレートガバナンス報告書で資本コストや株価対策について開示した企業のリストを公表しましたが、2023年末までにプライム企業で開示があったのは全体の40%、スタンダード企業では12%に過ぎません。「スタンダード企業は危機感が薄い」と指摘する投資ファンド関係者もいます。

2023年の株主総会で株主提案を受けた企業は90社で過去最高を記録しており、アクティビストは日本市場に狙いを定めています。スタンダード企業は少ない投資で莫大なリターンを得るための格好のターゲットとなっているのです。



ヘルスケアの未来を切り拓くオムロンの挑戦


オムロンがヘルスケア事業に進出したのは今から60年前、創業者の立石一真氏が病気の予防に取り組むために健康関連事業を立ち上げたのが始まりです。以来、オムロンは体重計や血圧計といった新製品を次々と開発し、多くのバイタルデータを蓄積してきました。このデータを予防医療に活用できないかと模索してきたオムロンは、ついに新たな一歩を踏み出しました。

オムロンのイノベーション推進本部長を務める石原英貴氏は、「日々のバイタルデータに加え、医療データがあれば健康リスクを予測できる」と語り、医療統計サービス会社大手のJMDCとの連携に着目しました。2022年2月、オムロンはJMDCと資本業務提携を結び、ヘルスケア分野での新規ビジネス開発に乗り出しました。そして2023年10月にはJMDCを連結子会社化し、2027年度に売上高1000億円を目指しています。

オムロンは血圧計や体重計に通信機能を搭載し、データを記録するアプリも開発しました。例えば体重計に乗るだけで、データが自動的にアプリに転送され一元管理される仕組みです。2024年現在、このサービスは世界130カ国で展開され、578万人分のアカウントが存在しています。

しかし、利用者の健康状態を把握するためには、健康診断や医療機関を受診した際のデータとの突き合わせが重要です。JMDCは全国の健康保険組合などからレセプト(診療報酬明細書)や健康診断結果を収集しており、日本最大規模の疫学データを保有しています。その数は1600万人分に上り、全国の健康保険組合加入者の約34%、人口の約8%に当たります。

オムロンとJMDCが目指すのは、こうしたデータの相乗効果です。例えば、JMDCが持つ医療データとオムロンのバイタルデータを匿名加工して組み合わせることで、脳梗塞や心筋梗塞などの重症化リスクを推測するアルゴリズムを開発します。このアルゴリズムを用いてハイリスクな人を抽出し、医療機関への受診を促す仕組みを構築する予定です。将来的には、健康管理アプリを通じて個人に発症リスクを示すことも検討しています。

2024年現在、オムロンは実証実験を行っており、JMDCのデータを用いて心筋梗塞や脳梗塞の重症化リスクが高い人々を抽出しています。そして、行動改善の働きかけを通じて健康保険組合での医療費支出がどの程度減るかを検証しています。

医療機関や保険者の持つデータを個人が特定されない形で第三者が利用する動きも広がっています。医療データの2次利用関連サービスの市場規模は、2020年の96億円から2023年には169億円まで成長しました(富士経済調べ)。市場拡大の背景には、医療データの電子化があります。例えば、電子カルテの普及率は10年前には2割程度でしたが、2020年には57%にまで上昇しました。

データの活用においては、提供者の同意が得られているかという点や、専門知識を持つデータ分析者の存在が重要です。例えばレセプトには便宜上の診断名が記入されることがあり、正確なデータを得るためには他の情報も加味する必要があります。医療情報データ会社大手のIQVIAジャパンの松井信智氏は、「疫学に通じているなど、その分野の専門性のある人が、データを“調理”する必要がある」と指摘しています。

医療データは組み合わせや加工の仕方次第で、さらなる市場拡大が期待されます。オムロンとJMDCの取り組みは、予防医療の新たな地平を切り拓くものとなるでしょう。



遺伝子検査データの活用と課題


「あなたの祖先はインドからユーラシア大陸を海沿いに移動してきました」「お尻や太ももに脂肪がつきやすい傾向があります」──これは一般消費者向けの遺伝子検査が提供する情報の一例です。10年以上前から国内で普及し始め、2024年現在市場は約70億円にまで成長しています。価格も手頃で、1万円台から検査を受けることが可能です。例えば、ジェネシスヘルスケアの「ジーンライフ」は累計検査数が業界最大級で、300以上の項目について調べることができます。

しかし、遺伝子検査の結果は現在の体調に関する医師の診断とは異なり、論文などから推測された「確率の情報」に過ぎません。そのため、研究が進めば結果が変わることもあります。ユーグレナ傘下のジーンクエストでは、定期的に結果の更新を行っています。

10年前には、DeNAやヤフーなどIT企業の参入が相次ぎましたが、遺伝子情報は一度検査すれば基本的に変わりません。そのため、関心の高い消費者の需要が一巡してしまうと、市場の急成長は期待できません。こうした背景から、ヤフーは2020年、DeNAは2022年に消費者向けサービスを終了しました。

残った企業は、データを活用した新たなサービスを模索しています。DeNAは2022年9月に取得したデータを製薬会社の日本イーライリリーの臨床試験で活用する試験運用を開始しました。遺伝的傾向や健康リスクが高い人を探し、治験の情報を提供するのです。ユーグレナも同様に、治験受託機関から依頼を受けて参加者のリクルーティングを行っています。

マーケティングなど商用目的での匿名化データの二次利用依頼も増えつつあります。ジーンクエストの岩田修社長は「データ活用による売り上げを今後3~5年でさらに成長させたい」と意気込んでいます。一方で、ジェネシスヘルスケアは商用目的でのデータ販売を行っていません。佐藤バラン伊里副会長は「個人の遺伝情報を守るため、データの商用利用はしない」としています。

経済産業省はDTC遺伝子検査ビジネス事業者に対するガイドラインで検査結果の匿名化を求めていますが、法的拘束力はありません。「遺伝子情報は個人を特定される可能性があり、悪用されると取り返しがつかない」と佐藤氏は指摘し、研究と検査目的のみで利用する方針です。

2023年秋には、米国の大手遺伝子検査会社23andMeで情報漏洩が発生し、約690万件の個人情報にアクセスがありました。日本には遺伝子情報の海外持ち出しを規制する法律がないため、遺伝子データが大手IT企業や海外から求められることもあります。ある関係者は「データの行方は事業者の良心に委ねられている」と話しています。

遺伝子情報は一度流出すると新たに書き換えることはできません。検査を受ける際は、リスクと得られるメリットを十分に理解し、納得することが重要です。



個人データの力:市場理解と戦略策定の鍵


JR東京駅近くのオフィス街にあるコンビニに足を踏み入れると、目を引くのは25種類ものカラフルなグミの棚です。対照的に、ガムの品揃えは大容量のボトルタイプを除けばわずか10種類。なぜ菓子メーカーはこれほどグミに力を入れ、その中でも硬いタイプを多く開発しているのでしょうか。その背景には、消費者データの詳細な分析があります。

東京・秋葉原に本社を構えるインテージは、市場調査で国内最大手の企業です。彼らがどのようにして個人情報を商品開発に活かしているのか、その過程を見てみましょう。あなたが店でグミを購入すると、レジで商品のバーコードが読み取られます。この情報はシステムに記録され、いつ、どこで、何が、いくつ、いくらで売れたのかが収集されます。これがPOS(販売時点情報管理)データです。インテージは全国の小売店約6000店舗からこのデータを集め、独自のデータベースで整理・統計化し、市場規模やシェアの詳細を把握します。

インテージの調査によると、2023年のグミ市場は約972億円に達し、前年比で約1.24倍の成長を見せています。対照的に、チューインガム市場は約576億円。これだけの差があるため、冒頭のコンビニでグミがガムの2倍以上並んでいるのも納得です。

次に菓子メーカーが知りたいのは、グミを購入する人の属性です。ターゲット像が明確になれば、商品開発の方向性も定まります。しかし、POSデータでは「誰が」購入したかまでは分かりません。そこで、インテージは約5万人の消費者モニターを確保し、詳細な調査を実施しています。彼らは年齢や性別、住所、価値観や趣味嗜好などを登録し、購入品のバーコードを専用アプリで毎日撮影します。このデータを提供することで報酬を得ています。

収集された情報を解析すると、消費者像が浮かび上がります。2023年の調査では、グミ購入者の中で30~49歳の男性が約22%、50~69歳の男性が約9%を占めていました。これを2017年と比較すると、30~49歳の男性と50~59歳の男性のグミ購入額は約2倍に増えています。「ブームを後押ししているのは若い女性ではなく、中年男性」という意外な事実が明らかになったのです。

さらに、インテージはオーダーメイドの「カスタムアンケート」も提供しています。例えば、菓子メーカーが「なぜ中年男性がグミを好むのか」という問いを投げかければ、それに合わせて質問を設計し、調査を行います。木地利光・市場アナリストは「2024年現在の中年男性は子どもの頃からグミに親しんできた世代。ガムの代わりに食べる人が増えている」と指摘しています。

市場調査の結果、男性客を取り込むためには硬いグミが有効であることが分かりました。店頭でのハードグミの充実は、こうしたデータ分析の成果なのです。

市場調査は極めて民主的な仕組みかもしれません。私たちは買い物を通じて企業に明確なメッセージを送ることができるからです。アンケート回答も同様で、簡単なものの謝礼は数円程度ですが、自分の好みを商品に反映させる手段となり得ます。

インテージの長崎貴裕・常務取締役執行役員CDOは、データの価値を生むためには「正確さ」が絶対条件だと強調します。誤りを含むデータを分析すれば、誤った結果が出てしまいます。そのため、信頼性の担保が不可欠です。さらに、生成AIの普及によって、データ分析が一般的なビジネススキルとなり、データの価値はますます高まるでしょう。データを活用すれば、生産や物流の合理化が進み、無駄のない持続可能な社会が実現できると期待されます。



個人情報売却の挑戦:懐が寒くなる季節に思うこと


クリスマスプレゼントに年末年始の帰省と、出費がかさむこの季節、私の財布はすっかり寒くなっています。そこで、小遣いを少しでも増やすために、スマートフォンのアプリを使って個人情報を売却することに挑戦しました。しかし、1週間の試みの末に得たのは「自分は無価値」という悲しい現実でした。

最初に試したのは情報銀行です。自分のさまざまなデータを預けると企業からオファーが届き、応じれば換金可能なポイントがもらえます。年収や毎月の支出、子どもの人数、自宅の間取りなど、65項目にわたる質問で私の生活環境は丸裸にされました。さらに本人確認のため、運転免許証の写真も送信しました。これで準備万端、あとは私の情報を欲しがる企業を待つだけでした。

しかし、なかなか引き合いがありません。届いたオファーはたった1件で、対価は1円でした。「29歳男性、会社員、既婚」では普通すぎて需要がないのかもしれません。自分はつまらない人間なのかと少し落ち込みました。

次に試したのはアンケートモニターです。会員登録をすると1日数件の依頼が届き、答えるたびにポイントを受け取れます。通勤時の電車の中で回答することにしました。情報銀行と違って、最初にあらゆるデータを委託するわけではなく、毎回職業などの属性を聞かれるのは煩わしかったです。しかし、当たりのアンケートもありました。例えば「旅行に関する質問」は、数問で終わり、所要時間は数十秒でした。

一方、設問が多く10分以上かかるものもあり、乗り換えの駅に着いてしまいました。ホームでスマホを操作しながら次の電車を逃してまで答えても、報酬は短いものと大差ありませんでした。計26件のアンケートをこなし、平均単価は約2.4円でした。これでは缶コーヒー1本も買えません。

次に試したのは購買情報です。レシートの画像を買い取ってくれるサービスで、金額には幅があり最高で1枚100円ということでした。撮影ボタンを押すと突然30秒の動画広告が流れ、視聴が義務でした。見終えて写真を送信すると、最低保証の0.4円が表示されました。時給換算で24円です。2つのアプリを併用しても、最高額は1枚1円でした。

最後の望みは位置情報でした。歩数計アプリを起動してスマホを持ち歩くと、移動距離に応じたポイントが貯まります。しかし、取材先と会う際は機能をオフにしなければならず、スマホのバッテリー消費も激しいです。休日に「今日は稼ぐぞ!」と意気込んで家族と出かけても、電池切れで計測されませんでした。残ったのはスーパー銭湯の入浴代と飲食代だけで、大赤字です。

結局、1週間で稼げたのは計76.4円でした。あるアプリ運営会社の幹部は「金銭目当ての人は続かない。楽しんで習慣化した人が残る」と教えてくれました。束になれば大きな価値を生むデータも、個人では二束三文ということです。「まじめに働こう」と思わされた1週間でした。



個人データ時代到来:変貌するプライバシー議論の現在地


個人データの扱いについての議論がますます重要になっている昨今、個人情報を保護する上でのポイントについて考えてみましょう。

まず、個人情報保護法に対する誤解を解消することが重要です。多くの人はこの法律が個人情報そのものを保護するものだと思っていますが、実際には個人情報の処理から個人を保護するための法律です。つまり、保護の対象は情報ではなく、個人自身なのです。

次に、個人情報という言葉に関する誤解もあります。氏名、年齢、住所などが個人情報だと考えがちですが、実際にはそれらの情報が組み合わさって個人を評価するために整理された「個人データ」全体が法律の対象です。

特に重要なのが「関連性の原則」です。データが集められ、個人の評価に使われると、データによる差別が発生する可能性があります。評価や決定の目的に直接関連する情報のみをデータとして使用することが、この原則の目的です。

例えば、借金をする際に、過去の返済実績や資産の保有状況、仕事の状況など、返済能力に直接関係する情報で評価するのは適切です。しかし、動画の閲覧履歴から「この動画を見ている人はお金を返さない確率が高い」とAIが分析したとしても、返済能力とは直接関係がないため、そのような評価は許されません。この点は、日本の個人情報保護法が参考にしているOECDのプライバシーガイドラインでも明確にされています。

また、欧州などで問題になっているターゲティング広告も、関連性が問われています。購買履歴に基づいてその店の商品を紹介するのであれば問題ありませんが、他店の購買履歴に基づいた広告は関連性がないため問題視されています。

個人情報の議論では、「本人同意」も重要なポイントです。個人の評価や決定に使わない場合、法律の趣旨からして問題はありません。例えば、製品開発にデータを使う場合、既存の個人データを統計として使用するのであれば、本人に関する決定に使うわけではないため、同意なくデータを二次利用しても問題ありません。

しかし、リクナビ事件のように、就活生の内定辞退率を本人の同意なしに予測し、採用企業に提供していたことは問題となりました。ウェブの閲覧履歴は相関関係があったかもしれませんが、内定辞退とは直接関係がなかったのです。

JR東日本がSuicaのデータを販売した件も炎上しましたが、これは統計として販売されていたため、個人の評価・決定に使う目的ではなかったので、全体としては問題ではありませんでした。しかし、「氏名を削除しているから個人情報ではない」と言ってしまったことが問題を引き起こしました。氏名を削除しただけでは依然として個人情報であり、転々流通を許すことになってしまうため、法律の規制が及ばないという誤解を招きました。

日本の個人情報保護法では、統計目的であっても集計前の個人データを第三者に提供することは規制されています。これは、欧州のルールよりも厳しい規制です。

データビジネスに進出したい企業が注意すべき点として、データビジネスの設計段階からデータ化の目的を決めることが重要です。特に個人に何らかの決定を及ぼす場合は、評価や決定の目的を明確にし、それに関連する情報のみでデータを構成するよう設計しなければなりません。その上で、公平性や正確性にも注意を払う必要があります。

データの外販については、現行法では委託方式が適法です。データの加工や分析を専門の処理業者に委託し、集計結果を自らの責任で販売することが認められています。この方式では、データの提供範囲が委託先までに限定されているため、転々流通しないことがポイントです。

医療データの突合についても、異なる病院のデータを委託して突合し分析することは許されていませんが、規制の見直しの余地はあります。

まとめると、個人データ時代においては、個人情報保護法の正しい理解と適切なデータ管理が重要です。評価や決定の目的に関連する情報のみを使用し、公平性や正確性に配慮することが求められます。



まとめ


個人データの時代が到来し、私たちの日常やビジネスに深い影響を与える中、多岐にわたるテーマを取り上げてきました。アンダーグラウンド錬金術や特殊詐欺の進化、さらにはビッグデータの活用事例まで、現代のデータ活用の複雑さと可能性を探ってきました。

ネット詐欺の最新手口には、SIMスワップやフィッシング詐欺があり、その防衛策も日々進化しています。特殊詐欺はヤミ金時代のノウハウが生きる新たな形態で、元暴力団組長の証言がその裏側を明かしています。また、ビッグデータの活用では、LINEやJR東日本の事例が未来のビジネス展望を示し、データビジネスの成功の秘訣も明らかになっています。

個人データの取り扱いに関しては、情報銀行の挑戦や個人情報売却の問題点が浮き彫りになります。さらに、遺伝子検査データの活用やヘルスケア分野での挑戦、そして個人データを巡るプライバシー議論の進展が議論されています。

このような多様なテーマを通じて、個人データの力がビジネス戦略に与える影響や、市場理解の重要性が明確になりました。今後は、より公平で正確なデータ活用が求められ、個人のプライバシーを守りつつ、技術の進歩と社会の発展を両立させることが、データ活用の鍵となるでしょう。

個人データの時代においては、技術と倫理のバランスが重要です。情報の透明性とセキュリティを確保しながら、新たなビジネスモデルの構築に向けた挑戦が続きます。私たちの生活やビジネスを豊かにするために、個人データの有効活用に向けて、より深い議論と取り組みが必要です。







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