解雇の法規制と抜け道!簡単に会社を解雇される時代が到来するのか

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解雇ってそもそも何?


解雇とは、雇主である使用者の意思による、一方的な労働契約の終了いいます。

会社で働く労働者と雇主である使用者は、労働契約を締結し、会社で仕事をしています。

民法では、期間の定めのな労働契約当事者は、いつでも解約申入れをなうしるものとされ (627条1項)ているため、雇主である使用者は、一方的に自由に労働者を解雇できるのが原則です。

しかし、使用者である会社の指揮命令下で従属的に仕事をしている労働者が、使用者の都合だけで一方的に解雇されてしまえば、労働者の労働契約上の地位は、不安定なもとのとなってしまします。

そこで、このような状況下で労働者の地位確保をどのように図っていくかが、解雇に関する最大の課題です。

そのため、労働契約法は、解雇を禁止・制限する規定を設け、不安定な状況に置かれている労働者を保護しているのです。



労働契約の終了事由


労働契約は、労働者と使用者との間の合意による契約である以上、解雇以外にも様々な事由で契約が消滅します。

労働契約の終了には以下のものがあります。

・期間の定めのある労働契約における期間の満了
・合意解約労働者と使用者の合意による労働契約の解約 )
・労働者による労働契約の一方的解約である辞職
・使用者による労働契約の一方的解約である解雇
・使用者による労働契約の一方的解約である解雇
・定年(労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了すること(期間の定めのある契約の終了ではない)
・労働者の死亡や会社の解散などの労働契約当事者が消滅する場合




病気休職中や産前産後休暇中の労働者は解雇しちゃダメ?


労働基準法19条では、「労働者が業務上の傷病よにる療養のめために休業する期間およびその後30日間」の解雇が禁止されております。

病気の療養のため働けなくなった労働者へは健康保険上の傷病手当金が支給され、会社独自の休職制度が儲けられている場合が多いです。

労働能力を喪失し、もしくは十分回復していない期間中に解雇されると、新しい就職を求めこるとが困難な労働者は、著しく生活が脅かされるとの考えから、病気休職中の解雇は制限されているのです。

解雇が制限されている「療養」は、「治癒・症状固定後の通院のみの状態は含まない(大坂築港運輸事件、大阪地決平2.8.31)」とされています。

また、「産前産後の女性が休業する期間およびその後30日間」も、解雇は禁止です。

日本では少子化による人口減少が課題の中、子供を産み育てることを社会としてバックアップすることが求められています。

育児・子育てと仕事を両立し、働き続けることが出来ることが求められていることを考えても、産前産後休暇に起因する解雇は認められません。



病気休職中の労働者は3年たてば解雇できる


業務災害による療養中の労働者に対して、使用者が打切補償を支払った場合は、例外的に病気休職中の解雇が認められます。

例えば、業務中に重傷を負い療養を余儀なくされた労働者が、3年を経過しても、療養から仕事に復帰することが出来ない場合、一定の打切補償を行い、労働者を解雇することができます。

また、業務災害による療養の場合・産前産後の療養の場合で、天災事変その他やむをえない事由のために事業の継続が不可能になった場合にも、解雇が可能です。

やむを得ない事由によって会社の事業継続が不可能となる場合にまで、解雇を禁止するのは行き過ぎだと考えられるからです。

この場合は、その事由について行政官庁の認定(除外認定)をが必要とされます。

なお、この除外認定は行政庁の事実確認手続にすぎず、客観的に除外事由が備わっていれば、除外認定がなくとも解雇禁止期間中の解雇は、有効であるとするのが裁判例(日本通運事件、東京高決昭26.8.22)です。

労働基準法19条

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。


労働基準法75条

1 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
2 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。


労働基準法81条

第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。




30日前の解雇予告が、雇主の義務


解雇は、期間の定めのない労働契約の終了事由であり、労働契約終了の意思表示の時期に、制限はなく、いつでも労働契約終了を宣告できるのが建前です。

しかし、予期せぬ解雇は、生活の糧を失う労働者にとって大きな脅威です。

そのため、労働基準法は、解雇される労働者が再就職口を探すための猶予を設ける制度を採用し、継続的労働関係の予期せぬ断絶によって生ずる労働者の不利益を緩和しようとしました。

使用者は、労働者を解雇するには、以下のどちらかのことをしなければなりません。
・少なくとも30日前に予告すること
・予告手当として30日分以上の平賃均金を支払うこと

ただし、この予告の日数は、1日について平賃金均を支払った場合は、その日数を短縮することができます。

解雇される労働者の準備期間として、30日以上前に予告するか、30日分以上の賃金を支払うかすることで、労働者の不利益を緩和することが求められているのです。

労働基準法20条

1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。




解雇予告なしで解雇するとどうなるの?


会社が労働者を解雇する場合は、30日前の予告をすることが原則とされていますが、予告なしで解雇する場合を即時解雇と呼びます。

予告なしの即時解雇がなされると、その解雇は有効なのか、以下の判例で確認しましょう。

細谷服装事件判決 (最判昭35.3.11)


「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は 即時解雇としては効力を生じない。

しかし、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に所定の予告手当の支払をしたときは、解雇の効力を生ずるものと解すべき」であるとしています。

30日の予告のない解雇であっても、30日が経過するか、30日分賃金を保証する予告手当の支払いさえあれば、解雇は有効として扱われます。

また、30日前までの解雇予告や30日分の予告手当が支払われない場合に、それに相当する損害賠償として、付加金の支払い義務が生じます。

30日分の予告手当に代わる「附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然発生するのものではなく、労働者の請求により裁判所がその 支払を命ずることによって、初めて発生するものと解すべき」とされております。

予告手当と付加金は、いずれも解雇時の30日分の賃金保証という意味では、本質的におなじものです。

したがって、使用者に労働基準法20条の解雇予告違反があっても、既に30日分の予告手当に相当する金額の支払を完了し、使用者の義務違反 の状況が消滅した後においては、労働者は」附加金請求の申立てはできないとされています 。







予告なしで即時解雇できる場合
「天災事変その他やむをえない事由のために事業継続が不可能となった場合」、または「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は、即時解雇できるとされています。

大震災など不可抗力による災害などによって、会社の事業の継続が不可能になった場合は、もはや労働者への解雇予告をする余裕もないでしょう。

また、労働者側に原因があって、解雇する場合も解雇予告は不要とされます。

ただし、労働者側に「労働者の責に帰すべき事由」として、「即時解雇されてもやむをえない程度に重大な職務違反または背信行為(麹町学園事件、東京地判昭30.6.21)」があることが、即時解雇の要件です。

予告なしの即時解雇をする場合、いずれも労働基準監督署による認定(除外認定)が必要です。

判例によると、労基署による除外認定を受けることが、解雇が有効に成立するために、「除外認定は解雇の効力発生要件ではない」としています。

日本通信社事件、最決昭29.9.28


除外認定は、認可・許可と異なり、除外事由に該当するか否かにつき行政官庁の確認を経ることで使用者の恣意による即時解雇を防止しようとする行政監督的手続であり、除外事由の存否自体は最終的には裁判所の判断により客観的に定まるものであって、行政官庁の認定により解雇の効力が左右されるものではない。したがって、除外事由が存在するときは行政官庁の除外認定は解雇の効力発生要件ではなく、これを受けなくても解雇は無効ならないとする。



以下のような、 労働関係の継続への期待が薄い臨時雇用労働者については、そもそも30日前までの解雇予告は不要とされています。

・1日単位で雇い入れられる者
⇒1カ月を超え引き続き使用されるに至った場合には、解雇予告が必要となります。

・2カ月以内の期間を定めて使用される者
⇒所定期間を超え、引き続き使用されるに至った場合には解雇予告が必要となります。

・夏の海水浴場の仕事、収穫期の農作の業手伝い、冬の除雪作業などの季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者
⇒所定期間を超え、引き続き使用されるに至った場合には解雇予告が必要となります。

・14日を超えない試用労働者



労働基準法21条

前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者




解雇権濫用の禁止により、日本の正社員は普通解雇すらやりにくい


解選事由にあたる事実があり、解雇が法律上禁止される場合でなく、労働協約や就業規則上の解雇事由に該当する場合を普通解雇といいます。

解雇する正当な理由がある場合が、普通解雇だと思えばわかりやすいでしょう。

このような解雇であっても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇」は、無効とされます。

民法上、期間の定めのない雇用契約については、解約理由つにき格別の制限はなく(627条1項)、使用者は労働者を自由に解雇しう るのが原則です。

しかし、解雇は労働者にとって生活手段の喪失を意味し、著しい不利益をもたらすばかりか、解雇の自由を背景に労働者が不利な 労働条件を承認せざるをえなくなることがあります。

そのため、権利濫用禁止の原則(民法1条3項)を解雇の場合に適用して、使用者の解雇権の行使が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上 相当として是認できない場合には、解雇権の濫用により解雇を無効とするとしたのです。



高知放送事件判決(最判昭52.1.31)


Y社のアナウンサーXは、担当するラジオニュース番組に、2週間に2度の寝過ごしによる放送事故を起こしたため、Y社はXを解雇し ました。

Y社は、Xの行は本来就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するのもであるが再各職など将来のことを考えて普通解雇しにたと主張し ました。

Xは従業員としての地位の確認を求めて提訴したのです。
判例の要旨

就業規則で定める普通解雇事由が存在する場合でも、「使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる。

本件において「Xに対し解雇をもってのぞむことは、いささか過酷にすぎず、合理性を欠き、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある」ので、本件解雇意思表示は、解雇権の濫用として無効である。

労働者の行為が懲戒解雇事由に該当する場合に、使用者が当該労働者の再就職など将来を考慮して、これを普通解雇に付す場合があ るが、普通解雇は懲戒解雇に比して労働者に特に不利益になるものではないから、このような措置も、労働基準法に照らして許さ れる。





整理解雇の4要件は、かなり厳格


不況時などに経営危機打開のため、一度に多数の労働者に対してなされる解雇を整理解雇といいます。

整理解雇は、一般的にはリストラと呼ばれています。

懲戒解雇や普通解雇のように、労働者側に原因がある解雇ではなく、会社都合の解雇であることが特徴です。

もっぱら使用者側の理由によるもので、経営への参与の許されない労働者の責任によるものでないこと、一時に多数の労働者の生活 に重大な不利益を与えるもでのあることから、かなり厳格な要件が必要とされます。

整理解雇の4要件(東洋酸素事件、東京高判昭54.10.29)


・整理解雇の経営上の必要性があったか(解雇の必要性)
⇒経営上の事情により、従業員縮減を行う必要性が客観的に存在していることを要します。 経営上の必要性とは、どの程度のものであるかについて判例は「高度の経営上の困難から当該措置が要請されるという程度で足り としています。

・整理解雇回避の努力を尽くしたか(解雇回避努力義務)
⇒使用者が、配転・出向、一 時帰休、新規採用の停止、希望退職者募集など、解雇以外の雇用調整手段を尽くすことが要請されます。

・整理解雇対象者の選定基準が客観的・合的理であったか(被解雇者の人選の妥当性)
⇒使用者の恣意によって整理解雇が行われないよう、整理解雇対者象の人選において、その基準の設定・適用の合理性、公正さが 確保される必要があります。

・労働者、労働組合と誠実に協議したか(手続きの適正性)
⇒使用者が、整理解雇の実施にあたり、人員整理の必要性と内容について、労働組合ないし労働者に対して説明をなし、十分な協議 を経て納得を得るよう努力する必要があります。





懲戒解雇は、最大の脅威


労働者の企業秩序違反に対する制裁としてなされる懲戒処分としての解雇を「懲戒解雇」といいます。

そして、懲戒解雇は、懲戒と解雇の両面的性質を有し、普通解雇以上に大きな不利益を労働者に及ぼします。

懲戒解雇は、解雇予告も予告手当なもく即時になされ、退職金の全部または一部が支払われないことも多いです。

さらに、懲戒解雇処分を受けた労働者は、以後事実上他の使用者の下でも働く際にも悪印象を与えます。

また、組合活動を行った労働者への「みせしめ」として、組合活動家に対して多用される傾向にありました。

そのため、解雇権濫用の有無は、普通解雇の場合よりも、使用者にとって厳格な基準で判断されます。

・手続規則に違反してなされた懲戒処分は、懲戒権濫用として無効
・懲戒事由発生後、長期間経過した後の懲戒解雇は、権利の濫用として、無効となりうる 。
・懲戒解雇事由に該当する場合に、使用者が当労働該者の再就職など将来を考慮してこれを普通解雇に付すことは、許される。





ダイハツ工業事件判決(最判昭58.9.16)


たとえ懲戒解雇事由に該当していても、具体的事由の種類・程度、情状などの諸事情に照らし、当該懲戒権の行使が、合理的で社会通念上相当と認められ、かつ適正な手続によってなされるのでなければ、その懲戒権の行使は懲戒解雇権の濫用として無効になります。

使用者により懲戒権の行使がなされると、それが客観的にみて違法なものであったとしても、労働者は、その処分の効力を裁判上争わのなければならないため、加重な負担を強いられます。

そこで、懲戒権濫用を防止するため、事前に労働協約などで懲戒処分を発動するにあたっては、労使代表からなる懲戒委員会の討議を経ることが要求される場合があります。

そして、手続規則に違反してなされた懲戒処分は、懲戒権濫用として無効になるのです。

なぜなら、当該手続規定の趣旨からすれば、懲戒処分の発動にあたって、この手続を遵守すべきことは当然と考えられ、仮に手続規則に違反してなされた解雇を有効とすると、このような手続を設けた意味がなくなるからです。



ネスレ日本事件判決(最判平18.10.6)


労働者が、就業時間中に管理職に対し暴行行為等を行ったことについての就業規則所定の懲戒解雇事由にあたることを理由とする退職処分及びそれに続く懲戒解雇処分が、事件の時点から7年以上経過した後にさなれた事例です。

この判例では、懲戒事由発生後、長期間経過した後の懲戒解雇は、権利の濫用として、無効となりうるとされました。
判例の要旨

・就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になる。

・当該暴行行為等は、職場で就業時間中に管理職に対して行われ、警察や検察よにる捜査を待つまでもなく、それに対する処分を決 めることが可能であった。

・また、当該事件についての捜査の結果が不起訴処分となったときには、懲戒解雇のような重い処分を行わないのが通常の対応と考えられ、本件のような重い処分を行うのは対応に一貫性を欠く。

・さらに、事件後、期間の経過とともに職場における秩序は、徐々に回復したことがうかがえ、本件懲戒処分の時点では企業秩序維持の観点から、重い処分を行うことを必要とする状況にはなかった

・したがって、本件退職処分及び懲戒解雇処分は、処分時点において企業秩序維持の観点から、そのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合 理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができず、権利の濫用として無効になる。



高知放送事件判決(最判昭52.1.31)


労働者の行為が懲戒解雇事由に該当する場合に、使用者が当該労働者の再就職など将来を考慮して、これを普通解雇に付しとたし ても、普通解雇は懲解戒雇に比して、労働者に特に不利益になるものではないから、このような措置も労働基準法に照らして許さ れる。



就業規則違反による懲戒解雇


会社には、仕事をする上でのお約束事や労働条件などが定められて就業規則があり、労働者は基本的に就業規則を遵守して仕事をすることになります。

就業規則には、違反したときに労働者を処分する懲戒事由が列挙されているものです。

懲戒事由の主なのもとして、以下のようなものがあります。

業務命令違反、守秘義務違反、職務懈怠、無断欠勤、経歴詐称、競業避止義務違反、兼業禁止違反、職務上の不正行為、始末書不提出、企業の信用失墜、所持品検査拒否、企業への中傷・名誉設損、暴行・脅迫、業務妨害、有罪判決、職務外非行

そこで、このような就業規則の懲戒事由による解雇の是非が問題となります。

八戸鋼業事件判決(最判昭42.3.2)


タイムカードで出退勤を管理し、かつ勤務時間の適正管理の観点から不正打刻を厳に戒められていた事業場において労働者がタイム ・レコーダーで不正打刻を行った場合、使用者は、企業秩序を侵害したものとして、特別の事情のない限り、その者を懲戒解雇処分 に付すことができる。

・通常の遅刻欠勤は、労務不提供として賃金カットの措置がとられるが、常習遅刻、無断欠勤となると、賃金カットみのならず、服務規律として、懲戒の対象ともなりえます。

・ タイム・レコーダーの不正打刻が解雇にあたかるかどうかは、状況により結論の分かれるところですが、本判決は、懲戒解雇処分を適法としました。



東日本旅客鉄道事件判決(最判平8.3.28)


企業秩序維持を目的とする指導監督上の措置として人事管理台帳、社員台帳に記載される「厳重注意」は、一種の制裁的行為であり、これを受けた労働者の職場における信用・評価を低下させ、名誉を害するものとして、その者の法的利益を侵害する行為である。

したがって、使用者がなした「厳重注意」処分を相当とする根拠となる事実の存在が証明されるか、使用者がその事実が存在すると判断したことに相当の理由があると認められない場合、

労働者が「厳重注意」によって被害を被った事実があれば、当該「厳重注意」は、違法なものとして、不法行為を成立させる。



日本鋼管川崎製鉄所事件(最判昭49.3.15)


米軍基地反対の示威行動を行い、安保特別法違反として逮捕・起訴された労働者に対してなされた懲戒解雇処分の適法性が争われました。

就業規則には、懲戒事由として「不名誉な行為をして会社の体 面を著しく汚したとき」との規定がありました。

判決は、以下のように述べ、米軍基地反対の示威行動は「会社の体面を著しく汚したとき」にあたらず、懲戒解雇を無効としました 。

・会社の名誉、信用その他社会的評価に重大な悪影響を与える従業員の行為には、それが職務の遂行と直接関係のない私生活上で 行われた行為であっても、会社の規制である就業規則が及ぶことがある。

・その場合、具体的業務妨害の結果や取引上の不利益の発生は、懲戒処分の要件ではない。

そのため、暴力的な米軍基地反対運動が、例え職務遂行となんら関係しないとしても、懲戒処分の対象となり得る。

・ただし、「会社の体面を著しく汚したとき」とされるのは、諸般の事情を総合的に判断して会社の社会的評価に及ぼす悪影響が 相当重大であると客観的に評価される場合である。

労働者が企業外の政治活動で逮捕・起訴され、会社の社会的評価に悪影響を与えたとしても、犯行が破廉恥な動機・目的によるものでなく、有罪判決の刑も比較的軽いのもであり、当該労働者が従業員3万人の大 企業の1工員にすぎない場合は、「会社の体面を著しく汚したとき」には該当しない。



横浜ゴム事件(最判昭45.7.28)


深夜酩酊して他人の家に侵入し、住居侵入罪として罰金刑に処せられた労働者に対してなされた「不正不義の行為を犯し、会社の体 面を著しく汚した」との就業規則規定に基づく懲戒解雇処分の適法性が争われた事例です。

①行為の態様(私生活の範内か否か)、②刑罰の程度(軽重)、③その者の職務上の地位(指導的なものか否か)の3点を判断基準としたうえで、当該解雇を無効としました。



山口観光事件判決(最判平8.9.26)


企業が労働者に対して、懲戒処分をなしうるためには、懲戒事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません。

また、懲戒の根拠規定は、それが設けられる以前の事犯に対し、遡及的に適用されてはなりません。

つまり、実際の行為の時に就業規則に反しない行為が処罰の対象とされてはならなく、定められたルールを過去の行為に適用してはいけないのです。

さらに、同じ違反行為に対し、2回懲戒処分を行うことも許されません。

「山口観光事件」では、休日出勤命令を拒否し、さらにこれに続く2労働日も欠勤した労働者に対し業務命令拒否、無断欠勤を理由とする懲戒解雇がなされました。

その後、その者に経歴詐称が判明したので、解雇を争う訴訟において経歴詐称をも処分理由に追加したことが問題となった事例です 。

使用者が労働者のある企業秩序違反行為に対して、懲戒処分を行った後に別の企業秩序違反行為が判明した場合、新たに判明した違反行為をすでに行った懲戒処分の理由に追加しうるかが問題となります 。
判例の要旨

「懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明ら かであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることではきない」。

一度下された懲戒処分に、さらに別の懲戒事由を付加することは許されないのです。





三六協定と懲戒解雇(日立製作所武蔵工場事件(最判平3.11.28))


Y社は、同社従業員であるXに作業の手抜きがあったとして、その原因究明等のため残業を命じたが、Xはこれを拒否した。

そこで、Y社は、Xに対し14日間の出勤停止の懲戒処分を言い渡すとともに、始末書の提出を命じた。

ところが、Xは始末書の提出を拒否したため、Y社はXを懲戒解雇した。

Xは懲解戒雇無効を主張した。

Y社の就業規則には、業務上の都合によりやむを得ない場合には、同工の労働場組合との協定により1日8時間の実時働間を延長することがある旨の定めがあり

また、Y社と労働組合との間では、三六協定が締結されていた。
判例の要旨

一般論として「使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合」、法定労働時間を超えて残業をさせることが出来ます。

「使用者が当該事業場に適用される就業規則において、一定の場合、三六協定の範囲内で労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、その就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、就業規則が具体的労働契約の内容をなす」

そのため、「就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負う」。

したがって、三六協定が、時間外労働時間を限定し、時間外労働の事由を明記していれば、当該就業規則は合理的と認められる。

そして、残業命令に従わなかった従業員に対して行った懲戒解雇は、有効である。





労働基準法36条1項

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。




内定取消は、解雇と同じなのか


どこかの企業に雇われるに際しては、書類選考や面接、筆記試験などの審査が行われ、合格であれば「内定」が言い渡されるのが通常です。

つまり、正式な労働契約が交わされる前に「内定」という企業への入社の許可が下されます。

正式な労働契約が締結された後の解雇であれば、解雇が厳しく規制されるのは、既に詳しく解説しました。

それでは、「内定の取消」の場合、解雇と同じように規制されるのかが問題となります。

特に新卒の就職活動生であれば、「内定」が出されると、事実上入社が確約されたものとして、他の企業の入社選考を辞退することも多いものです。

そのため、内定が取り消されると、入社を期待していた学生に多大な不利益が及びます。

大日本印刷事件判決(最判昭54.7.20)


使用者の募集に対する応募は、労働契約の申込みであり、これに対する使用者からの採用内定通知は、申込みに対する承諾である。

これにより、就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの解約権を留保した労働契約が成立する。

採用内定の関係に入った者は、解約権留保付とはいえ、卒業後の就労を期して他の企業への就労の機会と可能性を放棄するのが通例である。

そのため、就労の有無という違いはあっても、法的地位においては、内定者と雇用関係に入っいてる試用期間中の者と基本的に異なるところはない。

したがって、内定取消事由は、内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実で、それを理由に取り 消すことが、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認しうるものに限られる。

内定取消事由が、上記「客観的合理的であり、社会通念上相当でない」場合は、解約権の濫用として、当該内定取消は無効となる。

一般的に「契約」は申込と承諾という、両者の意思が合致したときに成立するものです。

労働契約における、申込は「使用者の募集に対する応募」であり、承諾は「採用内定通知」と考える場合、「内定」が労働契約の成立時期ということになります。

「内定」をもって労働契約の成立と考えるのであれば、「内定取消」は解雇と同様に考えることができるため、厳しい規制が課されるのです。

もっとも、内定は、「始期付解約権留保付の労働契約」の成立とされており、一般の解雇よりは緩やかな基準で内定取消を禁止しております。

一般的に内定時に結ばれる誓約書には、内定取消理由という条項があり、学生が卒業できないとき、健康を害したとき、身上調書に虚偽の記載をしたときなどの内定取消条項が掲げられています。

内定時に想定できなかった不慮の事態や、虚偽の事実が発覚した場合は、内定取消とできるものとされています。



物議を醸す「採用内々定」という微妙な言葉


特に新卒と呼ばれる大学卒業見込者に対する関係で存在しているのが「採用内々定」の言葉です。

正式な内定の前に、内定を確約する意味合いを持つのが「内々定」という言葉で、事実上の内定と見なされているのが実態です。

「採用内々定」は、法律的にはかなり微妙な立ち位置の言葉で、就職協定と呼ばれている経団連が定めていた「採用選考に関する指針」を遵守するために生じた言葉とも言えるでしょう。

経団連は、就職協定において新卒者の「正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降とする」と定めていました。

しかし、実際の採用選考は、10月1日より遥かに前に行われ、採用選考による多くの内定予定者も、10月1日より前に決まっていることが通例でした。

そのため、経団連に加盟している日本の企業の多くは、経団連の就職協定を表向き遵守するため、10月1日より前に内定者が決定する際に、「内々定」という言葉を使用して誤魔化しているのです。

そもそも経団連に加盟していない多くの中小企業や外資系企業は、就職協定など遵守する必要はありませんでした。

このような、新卒の就職活動の実態からして、就職協定が形骸化しているためか、2018年の10月に経団連は、今後就職協定は策定しないとしたようです。

また就職協定がなくなれば「内々定」という言葉もなくなるかと思いきや、経団連が策定していた就職協定と同種の内容を、政府が各企業に要請することになりました。

そのため、就職協定がなくなっても「内々定」という言葉自体は、当面就活で使われていくことになるでしょう。

法的に採用内々定を、採用内定のと同視し、内々定の取り消しを厳しく制限するべきかが問題となります。

この点についての最高裁判例はありませんが、採用内定の法的性質同様、個々の事案に即して判断されるべきですが、採用内定と同様に安易な取消は認めるべきではないと考えられています。

一般論では、多くの企業と応募者は、採用内々定により正式な労働契約の締結には至っていないため、労働契約の確定的な拘束関係に入ったとは考えないのが通常です。

そのため採用々内々定により採用内定同様労働契約が成立するわけではなく、「労働契約締結過程の一段階」または「労働契約の予約」が成立するものと解するのが通説です。

しかし、内々定を出した企業が、その後、応募者と他社との接触を禁止するなどの強い拘束を加えるような場合は、解雇の場合と同様「客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性」がない内々定取消は、認められないと考えられています。



試用期間中は自由に解雇していいの?


試用期間満了後の本採用の拒否や、試用期間中の解雇に関しても、通常の解雇と同様に「客観的合理的な理由があり、社会通念上相当である」ことが必要とされます。

それでも、試用期間中は解雇権を留保した労働契約が結ばれていると考えられることから、通常の解雇よりは、緩やかな規制での解雇が認められると解されています。

多くの企業では、労働者を採用するにあたって、採用後3カ月から6カ月程度の一定期間を試用期間と位置づけています。

試用期間において、実際の仕事ブリなどから本人の適性や能力を見定め、本採用するかどうかを決定するかを決定するものです。

そのため、本採用に至っていない試用期間と解雇の位置づけが、問題となってきたのです。

神戸弘陵学園事件判決(最判平2.6.5)


使用者が労働者の採用にあたり雇用契約に期間を設けた場合で、その趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、当該期間満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情の存する場合を除いて、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間と解するのが相当である。



三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)


本件の試用期間を付した雇用契約は、「試用期間中に当該労働者が管理職要員として不適格認めた場合は、解約できる旨の使用者の解約権が留保された労働契約」です。

「本件本採用拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇」にあたります。

「この場合の留保された解約権の行使とてしの解雇については、試用期間が労働者の適格性を判定するための期間のみならず身元調査の補充期間とも把握でき」ます。

そのため、「通常解雇より広範囲の解雇の自由が認められるものの、解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される」と結論付けました。





非正規労働者の雇止めは、許されるの?


パートやアルバイト、派遣、契約社員などの非正規雇用の労働者は、通常契約期間の定めがあることから、「有期雇用労働者」と呼ばれています。

このような有期雇用の非正規労働者でも、繰り返し契約が更新され、事実上期間の定めがない雇用契約と同視できるような場合の「雇止め」は、解雇と同様に規制されるのが原則です。

具体的には、以下の要件を満たす有期契約労働者を雇止めする場合、「客観的に合理的な理由があり、社会通上相当である」ことが必要となります。
・過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通上同視できると認められるもの
・労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由 があると認められるもの

また、3回以上更新されてる場合や1年以上の契約関係にある場合などに、雇止めを行う使用者は、少なくても30日前までに予告をしなければならに決まりがあります。

令和元年時点でのパートタイム労働者は、全体の3割を超えており、社会として重要な労働力である非正規労働者を、非正規であるからとの理由だけで、差別的な待遇をすることは厳しく咎められます。



東芝柳町工場事件判決(最判昭49.7.22)


「期間2カ月の契約が5回から23回にわたり更新された常用的臨時工においては、その契約は実質上期間の定めのない契約と異ならない状態」となっています。

そのため「雇止めは実質上解雇の意思表示にあたるので、雇止めの効力には、解雇に関する法理を類推適用すべき」です 。





日立メディコ事件判決(最判昭61.12.4)


Y社の臨時工は、非正規雇用ではありながら、5回にわたり契約が更新されていました。

そのため、臨時的作業ために雇用されのものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたといえます。

したがって、「契約期間の満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、 信義則違反又は不当労働行為などに該当」する場合は雇止めは無効とされます。

雇止めが無効とされる場合、「使用者が新契約を締結しなかったするとならば、期間満了後」は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるのです。

しかし、非正規雇用である「臨時工の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期約を前提とするもの」です。

そうであれば、「雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工(正社員)を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべき」です。

したがって、正社員である本工の側の「希望退職者の募集に先立ち臨時工員(非正規社員)の雇止めが行われてもやむを得ない」。

正社員の解雇と非正規社員の雇止めを、完全に同様に扱うことは出来ないものの、非正規社員の雇止めにも「客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当である」ことが必要なのです。



労働契約法19条

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


労働契約法17条

1 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。




会社が経営危機でも社員を解雇しないで、守ろうとする日本企業


日本の労働法では正規雇用の労働者の解雇は、厳しく規制され、労働者の解雇は、他に手段がなく、やむを得ない場合の最終手段という性格が強いのが特徴です。

このような法的な背景があるためか、会社が経営危機に陥っても、労働者を解雇せずに守ることが経営者としての使命だとでも言わんばかりの美徳が蔓延しています。

同時に「解雇される」という言葉に非常にネガティブな印象があり、解雇された労働者は何らかの問題を抱えていたのではないかと勘繰られることも多いです。

このような解雇に対するネガティブな印象は、その会社に活躍の場がなければ、躊躇なく他の働き口を求めるの諸外国の実情とは大きく異なったものです。

コロナ危機による多くの企業の経営難においても、日本政府は「雇用調整助成金」の支給によって、労働者の解雇を食い止めようとしました。

一方でこのような、「解雇」を極端にやり難い日本の風潮の中では、「解雇」以外の手段で労働者を辞めさせようとする実態が数多く存在しています。

人事権を駆使した嫌がらせのような配置転換や、追い出し部屋などの嫌がらせなどの、非倫理的な手段がある一方、

退職金上乗せによる希望退職者の募集などの比較的良心的な退職勧奨も盛んです。

またそもそも、正社員の雇用を絞り込み、期間の定めがある非正規労働者として雇用することで、会社都合での解雇を容易にする場合も多いのが実情です。

市場原理の中で、利益を出し続けなければならない企業にとって、固定費である人件費を容易に削減できない現状は、様々な歪みをもたらすのです。



退職勧奨は、事実上の『解雇』として機能


厳しい解雇規制で、正社員の手厚い雇用が法律上担保されている日本では、「退職勧奨」という名の事実上の解雇がしばしば行われます。

「退職勧奨」では、労働者に自主的な退職を促し、表向きは依願退職という体をとる場合が多いです。

あくまで自主的な退職を装いながら、実際は解雇に限りなく近いのが「退職勧奨」による依願退職なのです。

よく不祥事をおこしたり、問題の責任を取るために「辞表を書かせる」といったシーンが思い浮かぶのではないでしょうか。

辞表というくらいですから、本来労働者が自らの意思で退職する際に提出するのが辞表なわけです。

しかし、その辞表の提出を強制するということは、労働者の自主的な退職を促す「退職勧奨」の一種と言えるでしょう。

会社が退職を促しているだけですから、労働者側に退職する義務は、もちろんありません。

表向き、解雇という形態をとらない退職勧奨による依願退職ですが、「社会的相当性を逸脱した手段で半強制制的ないし執拗になさ れた」場合は、違法とされます。(下関商業高校事件判 (最判内55.7.10))

例えば、暴言や嫌がらせ、パワハラなどによって、間接的に辞めざるを得ない状況を意図的につくりだしたりした場合は、違法とされる可能性が高いと言えます。

もちろん退職勧奨自体が全て否定されるわけではなく、適正な手法で行われ、社会的に相当な程度で行われるかぎり認められるものです。



下関商業高校事件 (最判内55.7.10)


私立高等学校に勤務している教員が、退職勧奨に応じない意思を明確にしているにもかかわらず、執拗に退職を迫られたことことに対して精神的な損害を賠償請求しました。

裁判所は、以下の理由から、退職勧奨の違法性を認め、損害の賠償を命じました。

・退職勧奨は、自発的に退職するよう説得する行為であって、勧奨される者は自由にその意思を決定しうる。
・勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害する勧奨行為は、違法な権利侵害として不法行為を構成する場合がある。
・本件退職勧奨は、多数回かつ長期にわたる執拗なものであり、許容される限界を越えている。
・「退職するまで続ける」と述べるなど、際限なく退職勧奨が続くのではないかとの心理的圧迫を加えたものであって許されない。





退職勧奨とパワハラ【全日本空輸(退職強要)事件(大阪地判平成11.10.18)】


客室乗務員(X)として勤務していた原告が、交通事故によって、知能や能力が客室乗務員として適性を欠く状態に陥ってしまった事案です。

そのため、会社側は繰り返し、この客室乗務員に対して繰り返し、退職を強く促しました。

しかし裁判所は、会社の退職勧奨は、「社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となると言わざるを得ない」と結論付けました。

会社が客室乗務員のXに対して行った退職勧奨は以下のようなものでした。

・約四か月間にわたり、Xとその復職について、三十数回もの「面談」「話し合い」を行い、その中には約八時間もの長時間にわたるものもあった
・CAとしての「能力がない」「別の道があるだろう」「寄生虫」「他のCAの迷惑」などと発言
・Xの兄や島根県に居住するXの家族にも直接会つて、Xが退職するように説得することを要請





日本IBM(退職勧奨)事件(東京地裁 平23.12.28判決)


退職勧奨の対象となった社員が消極的意思を表明した場合でも、具体的かつ丁寧に説明・説得活動等を行って再検討を求めること等は、社会通念上相当な態様である限り許容される。





エフピコ事件(水戸地下妻支判平11.6.15)


会社の退職強要に応じない労働者に対し草むしり等の雑用の仕事しか与えなかった行為について問題となった事案です。

使用者の「労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備する義務」に違反するとされ、逸失利益として労働者らの平均賃金6ヵ月分、および慰謝料として50万円ないし100万円が認められました。

※最高裁で労働者側の逆転敗訴





鳥屋町職員事件(金沢地判平13・1・15)


石川県鳥屋町職員として勤務していた女性職員が、町の退職勧奨の対象となる48歳を迎えるにあたり、退職勧奨を受けたたものの退職を拒否しました。

退職勧奨に応じなかったことを理由に、昇給が停止されるなどの不利益を受けたとして、町を相手に提訴した事案です。

裁判所は、以下のように述べ「女性職員(原告)の近親者に働きかけ、原告が退職勧奨に応じるよう説得することを依頼することは、退職勧奨方法として社会的相当性を逸脱する行為であり、違法である」と結論付けました。
・退職勧奨は、その性質上、これを行うか否かは使用者である町において自由に決し得るものである
・しかし、被用者(原告である女性職員)は理由のいかんを問わず、その自由な意思において、勧奨を受けることを拒否し、あるいは勧奨による退職に応じないことができる。
・退職勧奨は、労働者の自由な意思決定を妨げるような態様でこれを行うことは許されない。
・退職勧奨のために出頭を命ずるなどの職務命令を発することは到底許されない。





追い出し部屋は、巧妙な退職勧奨


正社員の解雇規制の厳しい日本において、企業は解雇したい労働者を自主的に辞めさせるため、組織的な嫌がらせを行うことがあります。

辞めさせたい社員を、通称「追い出し部屋」と呼ばれる専門の部屋や部署に隔離し、意味のない単純業務をひたすらやらせたり、人格否定するような課題を与え、精神的に追い込んでいきます。

あからさまな嫌がらせを行う場合もあれば、一見研修や再就職支援のように見せかけ、実際は組織的に画策された退職勧奨である場合もあります。



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