会計帳薄の作成及び保存
株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない(会社法432条1項)とされています。
また株式会社は、作成した会計帳薄に関して、閉鎖の時から10年間、その会計帳薄及びその事業に関する主要な資料を保存しなければならない(会社法432条1項)とされております。
これらは株主から出資を受け経済活動を行っていることから、収支、資産状況を正確に記録し保管するという株式会社が負う基本的な責任と考えることができます。
会社の会計帳薄の閲覧等の請求
会社が作成した会計帳簿に関しては誰でも閲覧できるわけではなく、一定の要件を満たす株主及び親会社社員のみ会計帳簿の閲覧等の請求かできるとされています。なお、会社に対する債権者は閲覧等の請求ができないことに注意が必要です。
①株主が会計帳簿の閲覧等を請求するための要件は、以下のいずれかの要件を満たす株主です。
・総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき決権を行使することかできない株主を除く)の議决権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有すること。【議決権の3/100】
・発行済株式(自己株式を除く)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有すること。【発行済株式数の3/100】
なお、上記の要件をたす株主は、株式会社の営業時間内にいつでも、会計帳薄またはこれに関する資料の閲覧等の請求をすることができます。 こ
の場合においては、当護請求の理由を明らかにしてしなければなりません(会社法第433条第1項)。
また、株主から適法に会計帳簿の閲覧請求があった場合、一定の場合にに該当すると認められる場合を除き、株式会社は株主による閲覧等の請求を拒むことができません(会社法第433条第2項)。
株式会社が会計帳簿閲覧請求を拒むことができる場合は、以下の場合です。
- 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
- 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
- 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
- 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
- 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
②株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要かあるときは、裁判所の許可を得て、会計帳簿またはこれに関する資料について、閲覧等の請求をすることができます。
この場合においては、当該請求の理由を明らかにして閲覧請求をしなければなりません(会社法第433条第3項)。
なお、この親会社について、会社法433条2項各号のいずれかに規定する事由があるきは、裁判所は、許可をすることができません(会社法第433条第2項)。
会社法第433条第2項に事項とは、会社が会計帳簿の閲覧請求を拒むことが出来る場合を定めてものです。
つまり、会社が会計帳簿の閲覧を拒否できる要件に該当する場合は、裁判所も会計帳簿の閲覧を許可できません。
第四百三十三条 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。 一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求 二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求 2 前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。 一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。 二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。 三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。 四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。 五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。 3 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、会計帳簿又はこれに関する資料について第一項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。 4 前項の親会社社員について第二項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。
会計帳薄の提出命令
裁判所は、申立てによりまたは職権で、訴訟の当事者に対し、会計帳薄の全部または一部の提出を命することができる(会社法第434条)計算書類、決算の意義
・株式会社は、事業年度ごとに、当該事業年度末日現在の財産の状況を明らかにするため貸借対照表を作成し、また、当該事業年度に係る損益の状況を明らかにするため損益計算書を作成します。 貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものを「計算書類」といいいます。(会社法第435条第2項) 株式会社は計算書類その他のものを作成し、所定の監査等が必要なときは、監査を受け、これを定時株主総会に提示して、定時株主総会において承認を受け、これを公告します。 このような手続が決算です。
1 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。 2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。 3 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。 4 株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。
計算書類の確定の意義等
・計算書類は作成しただけで確定するのではなく、原則として定時株主総会で承認を受けることによって確定します。
・計算書類が確定することによって、株式会社の計算が終局的に決定し、これにより当該事業年度の計算は、株式会社の内部においてだけでなく対外的にも不動のものとなるのです。
・各事業年度に係る計算書類につき、定時株主総会等による承認を受けた場合における当該各事業年度のうち最も遅いものを「最終事業年度」というが(会社法第2条24号)、これは確定した事業年度のうち、直近のものを意味します。 ・計算書類の作成から定時株主総会等における承認、公告までの手続きの流れは以下のとおりです。
計算書類の作成及び保存
・株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。(会社法第435条2項)。なお、これらの書類は電磁的記録(電子媒体)をもって作成することができる(会社法第435条3項)。
計算書類は、取締役(委員会設置会社にあっては執行役)が作成するが、会計参与設置会社にあっては、取締役(委員会設置会社にあっては執行役)と会計参与が協力して作成する(会社法第374条)。
・株式会社は、計算書類を作成した時から10年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなけれはならない(会社法第435条4項)。
会社の計算書類等の監査
計算書類及び事業報書並びにこれらの附属明細書は、株式会社の機関構成に応じて、監査を受けなければならない(会社法第436条1項、2項)。・会計監査人が設置されていない監査役設置会社は、監査役が計算書類及び事業報書並びにこれらの附属明細書の監査を行う。
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社であっても、同様に監査役が計算書類及び事業報書並びにこれらの附属明細書の監査を行う。
・会計監査人設置会社は、監査役(委員会設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人が監査を行う。
この場合、会計監査人は、計算書類及びその附属明細書の監査をし、事業報告及びその附属明細書については、監査しない。
なお、監査役を置いていない株式会社(委員会設置会社を除く)においては、監査は不要である。
計算書類及び事業報告の取締役会における承認
取締役会設新会社においては、計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(監査を受ける必要があるものについては、所定の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない(会社法第436条3項)。 なお、取締役会設置会社でない株式会社においては、この手続は不要である。計算書類及び事業報告の株主への提供
取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、取締役会の承認を受けた計算書類及び事業報告(監査を受けたときは、監査報告または会計監査報告を含む)を提供しなければならない(会社法第437条)。取締役会設置会社でない株式会社においては、この手読は不要である。
計算書類及び事業報告の定時株主総会への提出等
取締役は、当該株式会社の機関構成に応じて以下の通り、監査・承認を受けた計算書題及び事業報告を時株主総会に提出し、または提供しなければならない(会社法第438条1項)。・取締役会及び会計監査人を置いていない監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定の定めがある株式会社を含む。)
⇒提出書類:監査役の監査を受けた計算書類及び事業報告
・取締役会を置いていない会計監査人設置会社
⇒提出書類:監査役及び会計監査人の監査を受けた計算書類及び事業報告(事業報告については、会計監査人は監査しない。一方の監査役は、計算書類と事業報告の両方の監査権限を有する)
※なお、取締役会を置いていない株式会社は、委員会設置会社ではあり得ないため、監査委員の監査を受けることはありえない。委員会設置会社は、必ず取締役会を置かなければならないからである(会社法第327条1項3号)
・取締役会設置会社 ⇒提出書類:取締役会の承認を受けた計算書類及ひ事業
・監査役、会計監査人、取締役会のいずれも置いてない株式会社 ⇒提出書類:監査や取締役会の承認を受けていない計算書類と事業報告書
定時株主総会による承認
定時株主総会に提出され、または提供された計算書類は.定時株主総会の承認を受けなけれはならない(会社法第438条2項)。これによって、計算書は確定する。なお、事業報告については、取締役が、その内容を定時株主総会に報告しなけれはならない(会社法第438条3項)。会計監査人設置会社においては、取締役会の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、定時株主総会の承認を受けることを要しない(会社法第439条)。会計監査人設置会社が取縮役会設置会社であれは、取締役会の承認たけで計算書類が確定する(会社法第439条)。
計算書類の公告
・株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなけれはならない(会社法第440条1項)。・公告方法は、当該株式会社が定款で定めたいずれかの方法によるが(会社法第939条1項)、公告方法を定めてない株式会社であれば、官報によって公告すべきことになる(会社法第939条4項)。
会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告
なお、このような株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照法の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることかできる。この場合においては、貸借対照表またはその要旨の公告は不要である(会社法第440条3項)。
計算書類の公告を要しない株式会社
金融商品取引法24条1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなけれはならない株式会社は、計算書類の公告は不要である(会社法第440条4項)。有価証券の発行者である会社は、その会社が発行者である有価証券(特定有価証券を除く。次の各号を除き、以下この条において同じ。)が次に掲げる有価証券のいずれかに該当する場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)、外国会社にあつては公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定める期間内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、当該有価証券が第三号に掲げる有価証券(株券その他の政令で定める有価証券に限る。)に該当する場合においてその発行者である会社(報告書提出開始年度(当該有価証券の募集又は売出しにつき第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文又は第二十三条の八第一項本文若しくは第二項の規定の適用を受けることとなつた日の属する事業年度をいい、当該報告書提出開始年度が複数あるときは、その直近のものをいう。)終了後五年を経過している場合に該当する会社に限る。)の当該事業年度の末日及び当該事業年度の開始の日前四年以内に開始した事業年度すべての末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定めるところにより計算した数に満たない場合であつて有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたとき、当該有価証券が第四号に掲げる有価証券に該当する場合において、その発行者である会社の資本金の額が当該事業年度の末日において五億円未満(当該有価証券が第二条第二項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等である場合にあつては、当該会社の資産の額として政令で定めるものの額が当該事業年度の末日において政令で定める額未満)であるとき、及び当該事業年度の末日における当該有価証券の所有者の数が政令で定める数に満たないとき、並びに当該有価証券が第三号又は第四号に掲げる有価証券に該当する場合において有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして政令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けたときは、この限りでない。 一 金融商品取引所に上場されている有価証券(特定上場有価証券を除く。) 二 流通状況が前号に掲げる有価証券に準ずるものとして政令で定める有価証券(流通状況が特定上場有価証券に準ずるものとして政令で定める有価証券を除く。) 三 その募集又は売出しにつき第四条第一項本文、第二項本文若しくは第三項本文又は第二十三条の八第一項本文若しくは第二項の規定の適用を受けた有価証券(前二号に掲げるものを除く。) 四 当該会社が発行する有価証券(株券、第二条第二項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等その他の政令で定める有価証券に限る。)で、当該事業年度又は当該事業年度の開始の日前四年以内に開始した事業年度のいずれかの末日におけるその所有者の数が政令で定める数以上(当該有価証券が同項の規定により有価証券とみなされる有価証券投資事業権利等である場合にあつては、当該事業年度の末日におけるその所有者の数が政令で定める数以上)であるもの(前三号に掲げるものを除く。)
会社の臨時計算書類
株式会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日(以下「臨時決算日」という)における当該株式会社の財産の状況を把握するため、法務省令で定めるところにより、次に掲げるもの(以下「臨時計算書類」という)を作成することができる(会社法441条1項)①臨時決算日における貸借対照表 ②臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書
・臨時計算書類については、各事業年度の計算書類と同様に、当該株式会社の機関構成に応じた所定の監査及び承認手続が必要とされる(会社法441条2~4項)。
・臨時計算書類を作成して、臨時決算をすることにより、事業年度の途中における損益の結果や自己株式の処分により取得した対価の額を、剰余金の配当等における分配可能額に反映させることができる(会社法461条2項②⑤)
会社の連結計算書類
連結計算書類とは、「当該会計監査人設置会社及びその子会社から成る企業集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの」と定義される。・会計監査人設置会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る連結計算書類を作成することができる(会社法444条1項)。
なお、連結計算書類は、電磁的記録をもて作成することができる(会社444条2項)
・連結計算書類の作成か義務付けられるのは、事業年度の末日において大会社であって、金融商品取引法24条1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会計監査人設置会社だけである(会社444条3項)。
・連結計算書類は、各事業年度の計算書類と同様に、所定の監査・承認を受け、定時株主総会に報告する必要がある(会社法444条4~6項)。
計算書類等の備置き及び閲覧等
株式会社は,次のとおり計算書類等を備え置かなければならない(会社法442条1~2項)。・各事業年度に係る計算書類及ひ事業報告並びにこれらの附属明細書(監査を受ける必要がある場合は、監査報告等を含む)を、定時株主総会の日の1週間 (取締役会設置会社にあっては2週間)前の日(319条1項の場合にあっては、その提案があった日)から、本店には5年間、 支店にはその写しを3年間、備え置かなければならない。
・臨時計算書類(監査報告等を含む)を、臨時計算書類を作成した日から、本店には5年間、 支店にはその写しを3年間、備え置かなければならない。
・ただし、支店には計算書類等を備え置かなくてもよい場合がある(会社法442条2項ただし書)
・株主及び債権者は、株式会社の営業時間内はいつでも、備え置かれた計算書類等の閲覧等を請求することができる(会社法442条3項本文)。
・株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について閲覧等の請求をすることができる(会社法442条4項本文)。