現物出資財産等の不足額てん補責任、任務懈怠責任、擬似発起人の責任
会社が成立した場合において、会社の財産的基礎を危うくした者が負うべき責任について考えましょう。
会社法は、会社の健全な設立を図るベく、設立に関して厳重な規制を定めています。設立関与者がこのような規制に違反することにより不健全な会社が出現すれば、株式引受人や会社自体、さらには一般第三者に不利益を与えるおそれがあるのです。
そこで会社法は、発起人等の設立関与者に対し、厳重な罰則の制裁(960以下参照)と重い民事責任(52~56、847~853)を課して、会社の健全な設立を期待し、関係者の保護を図っています。
設立関与者の責任としては、会社が成立した場合の責任と会社が不成立に終わった場合の責任とが考えられます。
引受・払込担保責任の撤廃
旧商法下では、会社成立後も引受けのない株式がある場合は発起人等が引き受けたものとみなされ、また、払込みが終わっていない株式がある場合には発起人等が払い込む義務がありました(引受・払込担保責任、旧192)。すなわち、旧商法下では会社が設立に際して発行する株式数を定款に記載しなければならず(旧166Ⅰ⑥)、そこで、引受け・払込みがないという事態を回避するため、発起人等に引受・払込担保責任を負わせたのです。
しかし、現在では資本金と株式との間に関連性はないので、資本金額を定めるために設立時株式の数をあらかじめ定款で決める必要はありません。
そこで会社法は前述の通り引受けや払込みがない場合は株主となる権利を失うものとし、したがって引受・払込担保責任は問題とならなくなります。
また債権者との関係では、発起人等の任務懈怠責任等により保護を図ることが可能です。ゆえに、発起人等の引受・払込担保責任は撤廃されました。
現物出資財産等の不足額てん補責任
株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が、定款に定められた価格(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足する場合、発起人及び設立時取締役は、会社に対し連帯して現物出資等の不足額を支払う義務を負います(52Ⅰ)。
この趣旨は、資本充実の要請、あるいは、株式引受人間の出資の平等の確保にあると解されているのです。
ただし、その現物出資・財産引受の当事者でない発起人・設立時取締役については、①現物出資・財産引受の定款の定めについて検査役の調査を受けた場合、又は、②当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合には、当該責任が免除されます(過失責任、52Ⅱ)。
もっとも、募集設立の場合は、株式引受人の保護に配慮し、発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合の免責はありません(無過失責任、103Ⅰ参照)。
また、出資の目的を問わず現物出資・財産引受の定款の定めについて、弁護士等の調査を受けることにより検査役の調査を免れることができる旨の規定(33X③)の設置にともない、価格の証明を行う弁護士等の不足額を支払う義務・損害賠償責任が規定されました(52Ⅲ)。
不足額てん補責任は、財産の実際の価格が受入価格より著しく不足したときに、会社に対して不足額を支払う責任であり、損害賠償責任とは、虚偽の証明を行ったことにより第三者に損害が生じた場合に、その第三者に対して損害を賠償する責任です。
【出資された財産等の価額が不足する場合の責任】
1 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、発起人(第二十八条第一号の財産を給付した者又は同条第二号の財産の譲渡人を除く。第二号において同じ。)及び設立時取締役は、現物出資財産等について同項の義務を負わない。
一 第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項について第三十三条第二項の検査役の調査を経た場合
二 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
3 第一項に規定する場合には、第三十三条第十項第三号に規定する証明をした者(以下この項において「証明者」という。)は、第一項の義務を負う者と連帯して、同項の不足額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
財産価格てん補責任の過失責任化
旧商法下では、現物出資等の財産の価値が不足していた場合に発起人等が負う価格てん補責任は、無過失責任とされていました(旧192ノ2)。しかし、近代法の原則である過失責任の例外である無過失責任を負わせるまでの合理的理由は認められません。
もっとも、募集設立の場合は発起人以外の者も出資を行うから、現物出資をすることができる発起人と、金銭出資しかできない引受人との公平を図る必要があります。
そこで、会社法は発起設立においては価格てん補責任を過失責任とし(52Ⅰ、Ⅱ②)、募集設立においては無過失責任としました(103Ⅰ)。
任務懈怠責任
発起人、設立時取締役又は設立時監査役(以下、発起人等)が会社の設立に関しその任務を怠ったときは、当該発起人等は会社に対し連帯して損害賠償の責任を負います(53Ⅰ、54)。
また、発起人等に悪意又は重過失があったときは、その発起人等は第三者に対しても連帯して損害賠償の責任を負うのです(53Ⅱ)。
第三者に対する責任は取締役の責任(429)同様、総株主の同意があっても免除されません(55参照)。
【発起人等の損害賠償責任】
1 発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
擬似発起人の責任
発起人とは、定款に発起人として署名した者をいいます。
しかし発起人として定款に署名しなかった者でも、発起人と同様の責任を負わせるべき場合があり得るのです。
そこで57条1項の募集をする場合(募集設立)において、当該募集の広告その他株式募集に関する書面・電磁的記録に自己の氏名又は名称及び株式会社の設立を賛助する旨を記載・記録することを承諾した者は、禁反言の法理に基づき、擬似発起人として発起人と同様の責任を負うものとしました(103Ⅱ)
すなわち擬似発起人は現物出資・財産引受の目的物不足額填補責任(52)、任務懈怠責任(53)、及び会社不成立の場合の責任(56)を負うのです。
擬似発起人の責任
旧商法においては、疑似発起人は発起人としての任務を有しないから任務懈怠責任は負わないと解されていました。しかし、会社法においては、引受・払込・給付担保責任(資本充実責任)が廃止され、任務懈怠責任の重要性が高まっており、103条2項の定めからも、疑似発起人は発起人と同様の責任を負うものと解されます。任務懈怠責任(過失主義) | 財産価値補填責任 | 悪意又は重過失がある場合の対第3者責任 | 無過失責任の場合の会社不成立の場合の責任 | |
---|---|---|---|---|
発起人 | 〇(53Ⅰ) | 〇(52Ⅰ) | 〇(53Ⅱ) | 〇(56) |
疑似発起人 | 〇(103Ⅱ、53Ⅰ) | 〇(103Ⅱ、53Ⅰ) | 〇(103Ⅱ、53Ⅱ) | 〇(103Ⅱ、56) |
設立時取締役 | 〇(53Ⅰ) | 〇(52Ⅰ) | 〇(53Ⅱ) | × |
設立時監査役 | 〇(53Ⅰ) | × | 〇(53Ⅱ) | × |
会社設立の瑕疵
法は、株式会社の設立につき厳格な規制を定めるとともに、このような法の規定を遵守する限り必ず設立が認められ、法人格が与えられることとしています(準則主義)。
しかし、登記官は形式的な審査権しかもたないことから、法定の要件を欠くにもかかわらず設立登記がなされている場合や、場合によってはなんら会社の実体が存在しないにもかかわらず、登記だけなされていることもあり得るのです。
また、いったん設立手続に着手したが、設立登記に至る前に頓挫し、会社が成立しない場合もあります。
このように設立に何らかの瑕疵がある場合であっても、多数の利害関係人を生じる会社の性質上、一般原則とは異なる処理がなされる場合があります。ここでは、このように設立に瑕疵がある場合の問題点について、設立無効、会社の不成立、会社の不存在について説明していきましょう。
設立無効
ここでは、「無効原因・取消原因」が重要となります。まず、設立無効原因としていかなるものがあるかについてしっかりとおさえる必要があります。
各種会社における設立無効原因の差異についてまで確認しましょう。
そのうえで、設立取消原因について、設立無効原因と比較しつつおさえていきます。
【会社の組織に関する行為の無効の訴え】
1 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 会社の設立 会社の成立の日から二年以内
2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
一 前項第一号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。)
設立登記により会社が成立したが、その設立手続が法定の要件をみたしていない場合、会社の設立は無効となるはずです。
そして設立が無効になると一般原則によれば、会社ははじめから存在しなかったことになり、誰でも方法を問わず設立無効を主張できます。また、会社との間で取引きを行った第三者は会社に対する権利を取得できないことになりそうです。
しかし設立登記により会社が有効に成立したかのような外観が生じると、会社をめぐって多数の法律関係が形成されるから、設立無効を一般原則により処理したのでは、法律関係の安定性を著しく害するでしょう。
そこで法は設立無効の訴えの制度を設け、設立無効の主張を可及的に制限する(成立後2年以内に訴えをもってのみ主張できる)とともに、無効となる場合についても特別な効果を定めているのです。
無効原因
会社設立における無効原因には、客観的無効原因と主観的無効原因があります。
客観的無効原因
客観的無効原因とは、設立に関する準則違反(客観的瑕疵)による無効原因です。株式会社の設立に関しては複雑な準則が定められているため、これに対応して客観的無効原因は多岐にわたっています。例えば設立に関する準則違反を無効原因として事例を列挙します。
① 定款の絶対的記載又は記録事項の記載又は記録が欠けていること(27)
② 定款に公証人の認証がないこと(30)
③ 発起人全員の同意による設立時発行株式に関する事項の決定がないこと(32)
④ 創立総会の招集や創立総会における設立経過の調査報告がないこと(65、87、なお83)
⑤ 設立時発行株式の総数の引受け又は発行価額の金額の払込みに欠缺があり、出資財産額の最低額をみたさず、それが発起人等によって治癒されないこと(52、103Ⅰ)
引受け・払込みの治癒と設立無効との関係
会社が成立したにもかかわらず、引受け・払込みのない株式があり、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27Ⅳ)にみたないときは、設立無効原因となります。それでも、発起人・会社成立当時の取締役が自発的に引受け・払込みを行うことにより、かかる設立無効が回避されるのでしょうか。
会社法においては発起人・会社成立当時の取締役は引受・払込担保責任は負わないものの、自発的に引受け・払込みを行うことはできるため、それでもなお設立無効原因が残るのかが問題となります。
引受け・払込みの欠缺が設立無効原因とされるのは会社財産確保の要請によるものであるから、発起人・取締役が現実にてん補したときには設立無効は回避されると解してよいはずです。
よって「設立に際して出資される最低額」にみたないときでも、発起人、取締役が現実にてん補すれば設立無効は回避されると解されます。
・ 現実の填補の有無により区別する立場(神田、弥永)
「設立に際して出資される最低額」にみたないことは設立無効原因となるが、発起人・会社成立当時の取締役が自発的に引受け・払込みを行い、欠缺が現実に墳補された場合には設立無効は回避される。
(理由)
現実の払込みが設立の要件なのであるから、現実にてん補されれば会社財産確保の要請はみたされるから、設立を無効とする必要はない。
主観的無効原因
会社設立における主観的無効原因は、個々の社員の入社行為の瑕疵(主観的瑕疵)による無効原因です。株式会社の場合、個々の株式引受が無効であり、又は取り消されても、その者が会社に参加しないのみで、主観的無効原因は存在しないので、設立自体はかかる人的理由により影響を受けません。
株式会社においては株主の個性は重視されないためです。
もっとも個々の株式引受の無効・取消しにより株式の引受け・払込みに欠缺を生ぜしめ、それにより客観的無効原因を生ずる場合はあり得ます。
そこで法は、株式申込・引受の無効・取消しの主張を制限し(51、102Ⅲ、Ⅳ)、設立無効を可及的に防止しようとしているのです。
【引受けの無効又は取消しの制限】
1 民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十三条第一項ただし書及び第九十四条第一項の規定は、設立時発行株式の引受けに係る意思表示については、適用しない。
2 発起人は、株式会社の成立後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
【設立手続等の特則】
3 設立時募集株式の引受人は、第六十三条第一項の規定による払込みを仮装した場合には、次条第一項又は第百三条第二項の規定による支払がされた後でなければ、払込みを仮装した設立時発行株式について、設立時株主及び株主の権利を行使することができない。
4 前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
設立取消原因
社員間の人的信頼関係が重視される持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)の場合には、主観的無効原因が存在します。
個々の社員が設立行為の取消しによりその者が社員でなくなると、会社の基礎に重大な変化が生じることから、個々の社員の設立行為の取消しが常に会社の設立自体の取消原因となるとされるのです(設立の取消しの訴え・832)
これに対して株式会社では、株主の個性や人的関係は重要でないから、個々の株主の株式引受に主観的瑕疵があっても会社の設立自体を取り消す必要はありません。
株式会社の場合には設立取消は認められていないのです。
【持分会社の設立の取消しの訴え】
1 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者は、持分会社の成立の日から二年以内に、訴えをもって持分会社の設立の取消しを請求することができる。
一 社員が民法その他の法律の規定により設立に係る意思表示を取り消すことができるとき 当該社員
二 社員がその債権者を害することを知って持分会社を設立したとき 当該債権者
民法424条適用の可否
株式会社については832条2号に相当する規定は存在しません。そこで、832条2号の一般規定たる民法424条が適用され、これにより出資約束ないし出資行為を取り消すことができるのか、それとも、民法424条は適用されず取消しは一切できないのかが問題となります。この点、会社の設立行為は団体法上の行為であるから、個人間の取引行為を前提とする民法424条の適用はできないとする見解もあります。
しかし債権者詐害的な会社設立を防止する必要性は高く、また、団体法上の行為の取消しは民法424条の特則である832条2号によりすでに法認されているといえるでしょう。
よって民法424条により出資約束ないし出資行為を取り消し得ると解されます。
【詐害行為取消請求】
1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
否定説(有力説)
民法424条の詐害行為取消権を根拠に債権者を害する会社設立を取り消すことは認めれらない、とする説の理由として以下のものが挙げられます。(理由)
① 出資行為は通常の個人間の取引行為ではない法人格の創設を目的とする合同行為であるから、個人法的な取引行為を規定する民法424条とは適用の場面が異なる。
② 株式会社の設立過程は生成発展していく手続きであるから、すでになされた行為を無制限に無効・取消しとすると、会社の内外において法的安定性を欠く。したがって、51条も会社設立後の株式の引受けの無効・取消しを原則として制限しており、この趣旨からして、少なくとも会社設立後は民法424条による取消しも許されない。
③民法424条により重要な会社財産が取り戻されると、事実上営業の遂行が不可能になり、設立無効ないし解散をきたすことになりかねないが、これは企業維持の要請が特に強い株式会社においては妥当でない。
肯定説(弥永、我妻、松本、鴻等通説)
民法424条の詐害行為取消権を根拠に債権者を害する会社設立を取り消すことができる、とする説の理由として以下のものが挙げられます。(理由)
① 債権者の強制執行を免れるために自ら発起人となって全財産を現物出資することにより、債権者を害する株式会社の設立が許されるべきではない。
② 会社の設立行為も財産出捐行為を要素とする行為である。
③ 民法424条を団体法上の行為に適用することについて疑問も出されているが、それは、持分会社においては、設立取消という形においてすでに法認されているといえる。
客観的瑕疵 客観的無効原因 | 主観的瑕疵 主観的無効原因 | 主観的取消原因 | |
---|---|---|---|
具体例 | 定款の絶対的記載・記録事項の記載・記録の欠如又は無効・設立登記の無効 | 社員の意思無能力・意思表示の無効 | 社員の制限無能力・意思表示の瑕疵 |
合名会社 | 〇 | 〇 | 〇 |
合資会社 | 〇 | 〇 | 〇 |
合同会社 | 〇 | 〇 | 〇 |
株式会社 | 〇 | × | × |
設立無効の訴え
一般原則に従い、誰でも、いつでも、どのような方法によっても設立無効を主張できるとすると、外形上有効に成立した株式会社をめぐる法律関係の安定性が著しく害されます。
そのため、無効の主張権者、期間及び方法を制限し、無効主張を可及的に防止しているのです。
提訴権者・提訴期間
「設立無効の訴え」の提訴権者は、「株主、取締役、監査役、執行役、清算人」に限られます(828Ⅱ①)。提訴期間は会社成立の日から2年以内です(828Ⅰ①)。
旧商法下における設立無効の訴えの提訴権者は、株式会社の株主、取締役、監査役、合資・合名会社の社員、有限会社の取締役及び社員とされていました。
しかし、①判例では清算中の会社でも設立無効の訴えが認められるとされていました(大判昭13.12.24)し、②会社法の下では監査役を置かない会社もあり得ます。
そこで、会社法における設立無効の訴えについて、①清算人にも提訴権を認め(828Ⅱ①)、②監査役は監査役設置会社に限って提訴権者になることとしたのです。
設立無効判決の効力
設立無効の訴えにおいて原告が勝訴し、設立を無効とする判決が確定した場合、その判決の効力は第三者にも及びます(838)。このことを「対世効」といい、会社をめぐる法律関係を画一的に処理するための効力です。また設立を無効とする判決は、将来に向かって効力を生じます(839)。設立無効の判決が確定した場合は、裁判所書記官は職権でその登記を嘱託しなくてはなりません(937Ⅰ①イ)。すでに会社・株主及び第三者の間に生じた権利義務には影響を及ぼさず、解散に準じて会社を清算すべきとされるのです(475②)。外形上有効に成立した会社をめぐる法律関係の安定と取引安全を図るためには、設立無効とされた会社は解散されるのが適切でしょう。
担保提供命令
旧商法下では、設立無効の訴えについては、合併無効の訴えにあるような担保提供命令の規定(旧106)は存在しませんでした。しかし、設立無効の訴えにおいても濫訴防止の要請はあります。また、担保提供命令は、原告敗訴の場合の損害賠償責任を担保するためのものです。設立無効の訴えの原告も損害賠償責任を負うのですから(846)、かかる原告に担保提供命令を課さないとすべき理由はありません。
そこで、会社法は、設立無効の訴えにおいても、裁判所は、被告の請求により、原告に相当の担保の提供を命ずることができるとしました(836Ⅰ)。
各種訴えの比較
会社関係をめぐる各種手続に瑕疵がある場合、その瑕疵を治癒する必要があります。そして、その処理を一般原則に委ねると、いつでも、誰でも、いかなる方法によってもその瑕疵を主張することができ、また判決には対世効がなく、遡及効が認められることになります。しかし、それではすでに存在する法律関係を有効なものと信頼して利害関係を有するに至った多数の利害関係人に損害を与えてしまうおそれがあり、著しく法的安定性を害することになります。
そこで、法は、瑕疵の種類及び程度に応じて、各種訴えの主張方法・判決の効果に差を設け、合理的な処理を図っています。
まず、すべての訴えにおいて、法律関係の画一的確定の要求から、判決の効力を会社と当事者以外の第三者に及ぼすことを肯定します(対世効の肯定)。
また、判決の効果には遡及効があるのが原則ですが、設立無効、合併無効等の場合は、あたかも有効である外観を前提として特に多数の法律関係が生ずるため、既往にさかのぼって無効とすると著しく取引きの安全を害することになります。
そこで、無効の判決があっても将来に向かって無効とするのみで、遡及効を否定しています。
また、本来無効はいつでも、誰でも、いかなる方法によっても主張できるものですが、会社関係をめぐる法律関係の安定の必要から、無効主張に制限を設けています。ただ、株主総会決議が無効・不存在の場合は瑕疵が甚だしいため、一般原則に戻り、無効主張に制限はありません。
対世効 | 遡及効 | 主張権者 | 主張期間 | |
---|---|---|---|---|
設立無効の訴え(828Ⅰ①) | あり | |||
新株発行・自己株式処分無効の訴え(828Ⅰ②③) | あり | |||
新株発行・自己株式処分不存在確認の訴え(829Ⅰ②③) | あり | |||
資本金額減少無効の訴え | あり | |||
合併無効の訴え(828Ⅰ⑦⑧) | あり | |||
株主総会決議取消しの訴え(831) | あり | |||
株主総会決議無効・不存在確認の訴え(830) | あり |
【会社の組織に関する行為の無効の訴え】
1 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 会社の設立 会社の成立の日から二年以内
二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三 自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内)
四 新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行 新株予約権の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、新株予約権の発行の効力が生じた日から一年以内)
五 株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内
六 会社の組織変更 組織変更の効力が生じた日から六箇月以内
七 会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内
八 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内
九 会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内
十 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内
十一 株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内
十二 株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内
十三 株式会社の株式交付 株式交付の効力が生じた日から六箇月以内
2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
一 前項第一号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。)
二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
三 前項第三号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
四 前項第四号に掲げる行為 当該株式会社の株主等又は新株予約権者
五 前項第五号に掲げる行為 当該株式会社の株主等、破産管財人又は資本金の額の減少について承認をしなかった債権者
六 前項第六号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において組織変更をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは組織変更について承認をしなかった債権者
七 前項第七号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収合併について承認をしなかった債権者
八 前項第八号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設合併により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設合併について承認をしなかった債権者
九 前項第九号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収分割契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収分割契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収分割について承認をしなかった債権者
十 前項第十号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設分割をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設分割をする会社若しくは新設分割により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設分割について承認をしなかった債権者
十一 前項第十一号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式交換契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は株式交換契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは株式交換について承認をしなかった債権者
十二 前項第十二号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式移転をする株式会社の株主等であった者又は株式移転により設立する株式会社の株主等、破産管財人若しくは株式移転について承認をしなかった債権者
十三 前項第十三号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式交付親会社の株主等であった者、株式交付に際して株式交付親会社に株式交付子会社の株式若しくは新株予約権等を譲り渡した者又は株式交付親会社の株主等、破産管財人若しくは株式交付について承認をしなかった債権者
会社の不成立
「会社の不成立」の意義について考えていきましょう。会社の不成立は前述の「設立無効」及び後述の「会社の不存在」とともに設立の瑕疵の一態様をなすものですので、三者の違いを意識しつつ理解するのが効果的です。
【株式会社不成立の場合の責任】
株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する。
発起人の責任
発起人が会社の設立に関してなした、発起人の権限の範囲内の行為については、発起人は連帯して責任を負います(56)。
第三者に対する行為について責任を負うのみならず、株式引受人に対しても受領した株金を返還することを要するのです。
設立のために支出した費用も発起人の負担となり、定款の定め(28④)がある場合であっても株式引受人に分担させることはできません(56)。
設立中の会社という概念は、主として、実体形成過程で発起人が行った種々の行為の効果が成立後の会社に帰属する関係を説明するために用いられています。
もっぱら株式引受人側に会社不成立の原因がある場合の発起人の責任
会社不成立の場合、発起人は設立に関してなした行為につき連帯して責任を負い、設立費用も発起人の負担となります(56)。しかし、創立総会において発起人の意思に反して設立廃止の決議がなされた場合のように、もっぱら株式引受人側に会社不成立の原因がある場合にも、設立費用は発起人負担となるかが問題となります。
このような場合、発起人の責任の性質について考えることが重要です。
発起人の権限の範囲内の行為の効果は、実質的には設立中の会社に帰属しています。
そうだとすれば会社不成立の場合は、設立中の会社も目的不到達により解散し、構成員も残余財産の分配を受け得るにとどまるはずです。
にもかかわらず56条が発起人に全責任を負わせたのは、株式引受人保護のために、特に政策的に株式引受人を第三者と同様に扱ったためと解されます
よってもっぱら株式引受人側に不成立の原因がある場合には、株式引受人の保護を図る必要はないから、発起人に全責任を負わせる56条後段の適用はないと解されるのです。
【株式会社不成立の場合の責任】
株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する。
当然説
会社不成立時の発起人の責任を定めた会社法56条は当然の事柄を規定したものであり、「連帯」とした点に意味があるに過ぎないとする説を「当然説」と言います。「当然説」では、もっぱら株式引受人側に不成立の原因がある場合にも、設立費用は発起人負担となるのです。
設立中の会社は会社の成立を前提とするものであり、会社不成立の場合には設立中の会社ははじめにさかのぼって消滅するから、発起人が形式的のみならず実質的にもはじめにさかのぼって権利義務の主体であったことになります。よって、発起人が責任を負うのは当然だと考えるのです。
政策説(多数説)
会社不成立時の発起人の責任を定めた会社法56条は、株式引受人保護のため政策的に発起人に全責任を負わせたものであるとする説を「政策説」と言います。もっぱら株式引受人側に不成立の原因がある場合には、発起人に全責任を負わせる56条後段の適用はないものとされるのです。
「政策説」を主張するには以下のような理由があります。
① 設立中の会社も、社会的・経済的実体として存在が認められるのであり、会社の成否いかんによりその存在が左右される理由はない。
② 会社不成立の場合には、設立中の会社は目的不達成により解散し、残余財産を構成員に分配すべきことになるはずである。これと異なって発起人に全責任を負わせている56条は、株式引受人保護のための政策的規定としてのみ説明できる
設立無効 | 会社不成立 | |||
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定義 | 会社の成立要件としての実体形成手続と成立登記を備えながら、無効原因がある場合 | 会社の実体形成手続は開始されたが設立の登記にまで至らなかった場合 | ||
主張者・主張方法 | 株主等が訴えにより主張(828Ⅱ①) | 誰でもいつでも主張可能 | ||
責任 | 発起人 | 対会社 | 対第三者 | 設立に関してなした行為についての連帯責任(56前)設立に関して支出した費用は発起人の負担(56後) |
任務懈怠による損害賠償責任(53Ⅰ、54) | 悪意・重過失あるときの損害賠償責任(53Ⅱ、54) | |||
設立時取締役 | ||||
設立時監査役 | ||||
払込取扱機関 | 払込金保管証責任にともなう責任(64、募集設立のみ) |