相撲界に問われる改革:力士の負担と公傷制度復活の議論

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2024年7月の大相撲名古屋場所で、初日から快調に3連勝を飾った元大関・朝乃山が、4日目に予想外の悲劇に見舞われました。一山本との取組で左膝を負傷し、膝が不自然に折れ曲がって倒れ込む場面は、多くのファンに衝撃を与えました。自力で立ち上がることができず、車いすで花道を引き揚げた朝乃山の姿には、力士が抱える身体的な負担の深刻さが浮き彫りになりました。

診断の結果、左膝の前十字靱帯などを断裂しており、約2カ月の加療が必要とされる状況です。このけがにより、名古屋場所は3勝2敗10休で終了。9月の秋場所では十両(西3枚目)に転落し、さらに11月の九州場所には幕下への降格も濃厚となっています。朝乃山は5月の夏場所でも右膝のけがで全休しており、名古屋場所では右脚をかばう中で左膝に過剰な負担がかかったとみられています。

名古屋場所では、朝乃山以外にも看板力士が土俵人生の岐路に立たされました。大関・貴景勝は負け越して関脇へ陥落し、1場所での大関復帰に必要な10勝を目指した霧島も8勝止まりで返り咲きには至りませんでした。2人とも首の負傷が原因で、万全の状態には程遠かったといいます。

こうした故障の連鎖に対し、力士が休場するたびに番付が下がる現行の仕組みが疑問視されています。完治しないまま強行出場し、さらなるけがを招くという悪循環に対する批判も高まっています。名古屋場所後、横綱審議委員会(横審)の山内昌之委員長(東京大学名誉教授)は、「けがを抱えた力士が無理をしていることが、貴景勝や霧島の現状を生んでいる」と指摘しました。そして、かつて存在した「公傷制度」に言及し、現代に合った形での仕組みの再構築を日本相撲協会に提案しました。

公傷制度は、土俵上でのけがに対する特例措置で、休場翌場所に全休しても番付が維持される仕組みでしたが、制度の悪用が疑われたことから2003年に廃止されています。そのため、協会執行部は復活に慎重な姿勢を崩していません。協会幹部や親方の間では、「けがをしない体を作る稽古が足りていない」という意見が根強く、力士自身の努力を求める声が主流を占めています。

しかし、毎場所のように看板力士の休場が続く現状を放置すれば、興行自体が成り立たなくなる懸念もあります。山内委員長は「問題解決に向けた準備を始めるべき時期に来ている」と訴え、協会執行部に早急な対応を促しました。

SNSでは、「力士が無理をして出場し、さらにけがを悪化させる現状は見直すべき」「公傷制度の復活が必要では」といった声が広がっています。一方で、「制度の悪用を防ぐための新しいルール作りが必要」との意見も見られ、相撲界の課題解決に向けた関心の高まりを感じます。

力士の故障や新弟子減少といった問題を抱える相撲界は、数々の難題と向き合いながら変革を求められています。この悪循環にどう立ち向かい、次世代の相撲をどう形作るのか。その答えが示される日はそう遠くないのかもしれません。

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